PFS手法を活用した施設・インフラの維持管理事業に対する一考察シリーズ:事業共創①

2023/11/16 細木 翼
PPP
公共施設
官民協働

1.はじめに

人口減少が本格化し、急速に成熟型社会に転換する我が国においては、国・地方公共団体、民間企業・団体、大学・研究機関、市民・国民等の多様なステークホルダーが連携して、社会課題の解決に資する新しい枠組みや仕組みを創り出し、それらを効果的に運用していくことが求められている。

本コラムは、これからの時代に求められる新しい価値の創出に向けた社会的潮流の紹介および今後の政策形成に向けた提言に関する連載(シリーズ:事業共創)の一葉として、これまで主に福祉や健康分野で取り組まれてきた成果連動型民間委託契約方式(PFS:pay for success)について、施設・インフラの維持管理分野に導入する新たな事業モデルの構築に向けた基礎的な論点整理を行うものである。

2.我が国におけるPFSの現状およびニーズ

PFSは、より効果的な社会課題の解決に向けて、設定された成果指標の達成度合いに応じて委託等の支払額が変動する官民連携手法である。従来型の委託契約と異なり業務仕様は詳細化されず、業務を実施する民間事業者(以下“PFS事業者”という)には、業務の実施方法について一定の裁量が委ねられるのが特徴になっている(ブラックボックスアプローチ)。

我が国では2017年度頃から本格導入が始まった比較的新しい手法であるが、2022年度末時点の導入件数は179件に達するなど、医療・健康分野や介護分野を中心に、急速に普及が進んでいる。

このような状況のなか、弊社が継続的に実施している「成果連動型民間委託契約方式(PFS)に関する実態調査」においては、PFS・SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)を活用したい分野として、施設・インフラ維持管理分野が健康増進分野に次いで多い。同分野での導入実績は多くないものの、自治体のニーズは大きいといえる。

図表1 PFS導入実績
PFS導入実績
(出所)内閣府ホームページ「国内におけるPFS事業の取組状況について(令和5年5月25日)」(https://www8.cao.go.jp/pfs/2023chousa.pdf)に基づき当社作成
図表2 自治体のPFS活用分野に対する意向
自治体のPFS活用分野に対する意向
(出所)令和4年度 成果連動型民間委託契約方式(PFS)に関する実態調査(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に基づき当社作成

3.施設・インフラの維持管理分野におけるPFS導入先行事例の概要

国内における、施設・インフラの維持管理分野のPFSの主な導入事例の事例概要を以下に示す。両事例ともに、維持管理に係るコスト削減を主目的とし、PFS事業者としてコンサルティング事業者が選定されている。

PFS事業者は、行政と維持管理等を委託している事業者(以下、“維持管理等事業者”という)の間の契約内容や業務仕様を分析し、分析結果に基づき改善等の提案を行う。PFS事業者の提案に基づき、維持管理等に係るコスト削減が実現された場合に、PFS事業者に対して成果連動支払いが行われる仕組みとなっている。

図表3 先行事例概要
先行事例概要
(出所)各事業の業務仕様書等の公募資料に基づき当社作成

4.維持管理事業者が主体となった新たなPFSのイメージ

上記で整理した先行事例は、成果指標の達成と行政コスト削減の関係性が分かりやすい点がメリットとなっている。一方で、コスト削減以外の社会的効果の創出が分かりにくい点は課題といえる。

我が国がストック型社会に移行するなかで、施設・インフラ維持管理分野は新たな技術やノウハウの開発、実用化が急速に進む分野である。コンサルティング事業者のみならず、維持管理等事業者をPFS事業者として設定する事業は、業務仕様を詳細化せず民間ノウハウを活用し、より効率的な成果の達成を目指すPFSの本来の趣旨により合致すると考えられる。

具体的には、従来型の委託発注において、業務仕様で実施手順や回数などが規定されていた維持管理等の業務について、業務の一部にPFS方式を採用し受託者に一定の裁量を認めることで、新たな技術やノウハウを導入し、効率的な業務遂行・直接経費の縮減を図ることで、行政からの発注コストを抑制しつつ、民間事業者の創意工夫を引き出し、行政サービスの維持・向上により寄与することが想定される。

図表4 PFSのメリット
PFSのメリット
(出所)内閣府資料「成果連動型民間委託契約方式パンフレット」(https://www8.cao.go.jp/pfs/pamphlet.pdf)の記載に基づき当社作成
図表5 事業イメージ
事業イメージ
(出所)当社作成

5.具体化に向けた2つの重要ポイント

(1)成果指標および事業実施体制の設定

先行事例では、コンサルティング事業者をPFS事業者とすることで、維持管理等事業者に対する発注費の減そのものを成果指標化することができた。一方で、維持管理等事業者自身がPFS事業者となる場合には、成果指標を別途設定する必要が生じる。

ふさわしい成果指標の設定については、施設・インフラの種類や事業の目的の設定により異なるため、ロジックモデルの作成等を通じた丁寧な検討が必要になる。一例として、維持管理の水準に対するきめ細やかなモニタリングに加えて、施設等の利用者に対する満足度調査結果、環境負荷の低減や長期的な維持管理コストの削減等も成果指標として設定することが考えられる。

その他、コンサルティング会社がPFS事業者となる場合と比べて、維持管理等事業者自身がPFS事業者となる場合には、より客観的な立場からの成果評価が必要となる。事業実施体制に第三者評価機関を設置することが望ましいといえる。

図表6  事業実施体制イメージ
事業実施体制イメージ
(出所)当社作成

(2)事業費の水準・支払条件の設定

成果達成に対するリスクを民間事業者が負うPFSスキームにおいて、適切な水準の事業費の設定および支払条件を設定する必要がある。

PFS事業形成にあたって、業務仕様の緩和・民間事業者の裁量拡大を通じた創意工夫の余地や直接経費の削減可能性を把握したうえで事業費の水準を設定する必要がある。また、最大支払額に対する固定支払額と成果連動支払額の設定についても、事業およびコスト構造を把握したうえで、過度に民間側がリスクを負わない事業費の水準・支払条件を設定することが求められる。

6.終わりに

本稿では、自治体のニーズが大きいものの、先行事例の件数の少ない施設・インフラの維持管理分野へのPFS手法の活用に向けた事業イメージおよび論点整理を行った。ブラックボックスアプローチの導入による性能発注を行うことで、発注コストの抑制および行政サービスの維持・向上が期待できる。

一方で、案件形成に向けては、従来の医療・健康や介護分野とも異なる検討の論点が想定される。事業化の検討にあたっては、サウンディング調査等の官民対話を通じた丁寧な事業条件の検討が必要といえる。

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