PPP/PFIにおける長期契約の満了に係る課題と対応策 期中評価の活用による次期事業の組成に向けて

2023/12/14 安田 篤史、山田 怜奈
PPP
PFI
官民協働
公共施設
評価

1. 長期のPFI事業における契約満了の本格化

1999年に制定された「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)からおよそ四半世紀を経て、全国規模で多数のPFI事業が積み上がってきた。PFI(Private Finance Initiative)は、公共施設等の設計、建設、維持管理、運営等の包括化を通じて事業効率やサービス水準の向上を図る手法であり、長期契約をその特徴の1つとしているが、わが国最初の本格的なPFI事業の契約締結から約23年が経過し、PFI法施行後の黎明期に事業開始となった事業の多くが期間満了を迎えつつある。

内閣府の公表資料[ 1 ]および公表情報等により、2023年3月31日までに実施方針が公表されたPFI事業について確認を行ったところ、PFI事業契約が2023年11月7日時点で締結済みであり、契約期間が確認可能なものは879件であった。PFI事業の契約期間(事業期間)に着目した場合、これまで契約締結された事業全体としては、15年以上の長期契約となるケースが多くなっている(図表1参照)。

図表1 契約締結に至ったPFI事業における契約期間の状況
契約締結に至ったPFI事業における契約期間の状況
(出所)公表資料等より当社作成

図表1のうち、契約満了に至ったものは241件確認され、全体で3割近くのPFI事業が既に契約満了を迎えた状況となっている(契約継続中の事業は638件)。
また、契約満了の有無を切り口に整理すると、契約満了済みの事業における契約期間の平均値は10.6年と算定される一方、契約継続中の事業における契約期間の平均値は19.4年と算定された。加えて、契約期間を細分化して傾向を確認したところ、契約満了済みの事業では15年未満の事業が7割以上を占める中で、逆に契約継続中の事業では契約期間15年以上の事業が8割近くとなっており、契約満了の有無により、契約期間に大きな差異が生じているといえる(図表2参照)。
なお、これらの違いに関しては、PFI法制定からまだ25年を経過していないことに加え、契約満了済みの事業の中にはBT方式[ 2 ]と呼ばれる施設の維持管理・運営を含まない短期のPFI事業が多く含まれること、PFI法改正による公共施設等運営権制度(コンセッション方式)の導入時期の点で、契約継続中の案件には比較的長期の事業期間が設定されやすいコンセッション事業が多数該当すること等が影響していると考えられる。

図表2 PFI事業における契約期間の比率(契約満了の有無)
PFI事業における契約期間の比率(契約満了の有無)
(出所)公表資料等より当社作成

以上より、契約満了済みの事業について、長期契約を前提とするPFI事業としては比較的短期の契約期間となっていることが多く、これから契約満了を迎えるPFI事業ほど長期契約となっていることが推察される。特に契約期間20年以上のPFI事業に限れば、そのほとんどがこれから契約満了を迎えることとなり、多くの施設管理者(自治体等)にとっては初めての経験となるため、契約満了に際しての考え方や次期事業の取り扱い等について、慎重な検討・判断が求められる状況といえる。

2. PFI契約満了後の動向とロックイン効果

PFI契約の満了後の事業の動向については、2019年2月付の内閣府資料[ 3 ]において、2019年度末までに契約満了済み又は契約満了予定のPFI事業を所管する国・自治体等を対象としたアンケート調査結果が掲載されている。
同調査によれば、次期事業として選択される事業手法は、全体としては分離発注等を前提とする従来方式を採用する事業が多いものの、施設種類ごとに選択される手法の傾向が異なっており、指定管理者制度や新たにPFI方式を採用するケースもあったほか、事業期間の延長(契約延長)により対応する場合も確認された。また、次期事業の受注者については、回答のあった事業のうち63%が「当初事業を実施した民間事業者とは異なる民間事業者と契約締結した」とされていた。これについては、当初事業においてBT方式の事業が含まれることで、異なる民間事業者による次期事業の実施が元々予定されていた可能性[ 4 ]が残るものの、先述の事業手法の動向と合わせて考えれば、多くの事業でPFI契約の満了を契機に事業の実施体制・手法が刷新されたと想定される。

一方で、当初事業を実施した民間事業者(の一部)と何らかの形で契約締結した事業は37%に上り、当初事業の契約期間を含めれば、相当に長期間にわたって当該事業に関与し続ける民間事業者が一定数存在することが示唆される。これに関連して、2019年11月の内閣府資料[ 5 ]では、「次期事業検討における留意点」として、当初事業よりも次期事業のほうが事業者募集時の応募者数が少なくなる傾向にあることを示すと同時に、当初事業の受注者のノウハウの優位性等の点で競争環境の整備が難しい場合があることを指摘している。

このような、特定の民間事業者による事業継続が長期にわたる場合、競争性の消失に伴うロックイン効果[ 6 ]が生まれている可能性が想定される。この場合、事業を所管する国・自治体等側においては、別の民間事業者に事業実施者を切り替える費用(スイッチングコスト)が大きいと受け止め、より良いサービスを得られる可能性よりも、情報開示等に必要な多額の費用発生のリスクを避けている状況とも考えられる。
実際に、特定の民間事業者が長期にわたってほぼ独占的にサービスを続けている事業について、新規参入を促進するため客観性・透明性の高い情報開示を図る場合には、詳細な事前調査費用や既存事業者による協力・記録化等が必要となり、直接的な調査費用だけでなく発注者側の体制強化の点でもハードルが高い状況となっている。これは、PFI事業に限らず、広く民間事業者と連携を図るPPP(Public Private Partnership)においても、長期契約を前提とする限りにおいては同様の課題とみなすことができる。

こうした状況は、IT関連の「ベンダーロックイン」(特定のベンダーの製品等に依存し続けること)やエネルギーインフラの「カーボンロックイン」(既存の化石燃料ベースでのインフラ利用が続くこと)と共通する点もあり、PPP /PFIの契約満了に際してもロックインの発現を念頭に置いた意識的な取り組みが重要といえる。

一方で、ロックイン効果の可能性が想定されるとはいえ、先述の「ベンダーロックイン」や「カーボンロックイン」と比べれば、PPP /PFIにおける長期の事業継続自体は必ずしも固定化の度合いが強いものではない。長期契約を前提とするPPP /PFIの場合、企業によるオペレーション全般が事業の中心であり、オペレーションの可変性は一定程度あると考えられるため、契約期間中の事業評価や発注者によるモニタリングの仕組みを通じ、事業者による継続的・自律的な改善を促すことで、適切な事業推進が期待される。このような契約期間中の評価のあり方について、次節にて実務的な課題と対応策を整理したい。

3. 次期事業への活用を意識した期中評価のあり方

PFI事業をはじめとするさまざまなPPP /PFI事業では、内閣府の「PFI事業における事後評価等マニュアル」[ 7 ]で示されるように、事業期間満了前に事業における効果、課題等を明らかにし、次期事業が想定される場合は次期事業手法についても検討するとしている。また、自治体等の意向に基づき、事業期間終了時にも期間全体を通じた事業評価が行われる場合がある。

現在、公共事業については、分離発注等を前提とする従来方式とPPP /PFI方式を比較評価し、メリットがあるものについて、原則的にはPPP /PFI方式として事業化することとなっている。こうした事業実施前の比較評価に加えて、事業開始前に整理した効果と事業実施後の結果を比較することで、最終的に発揮された効果の実態やそれに影響を与えた事業期間中の要素、事業検討時に行った実施効果の算定精度等を把握することが可能となる。事業期間中において定期的に評価・モニタリングを行うことにより、事業者の業務状況を折々で振り返ることができ、事業に問題が起きている場合に把握しやすくなることも、事業評価の効果の1つといえる。
事業評価の結果は、次期事業の業務内容や要求水準の規定内容等につながるほか、他のPPP /PFI事業の事業検討に活かすことも期待されている。多くの公共事業でPPP /PFIが検討される現在、事業評価を通して得られる事業の課題や要求水準等の改善点を把握することは、PPP /PFIのメリットを最大にするためにも自治体等にとって非常に有用である。

一方で、長期のPPP/PFI事業が開始された当初は、長期事業の評価の蓄積がない時期であったことから、事業期間中の評価方法や事業終了時の評価の進め方について具体的な知見を有していた自治体等は乏しく、実務上の評価方法については手探りの状態で規定・実施されることもあったと考えられる。
現在、事業期間の終了を迎える長期事業が出始めてきた中、当社にて携わったいくつかの事業での事業評価を通じて感じた評価実務に係る課題について、サービス水準の評価の面から整理したい。

(1)事業期間中

多くの事業において、評価対象の各項目に対し、A、B、C等の段階評価を行う方法が採られている。段階評価の注意点として、長い評価期間や評価担当者の交代等により、評価基準のずれ(各段階の意味合いが変わること)が起こりやすいことが挙げられる。そのことから、各項目の評価方法として、要求水準や事業者の提案事項を充足しているか、あるいは未達かという直接の評価者でなくとも、後から判断の根拠が理解できる客観的な評価とすることで、評価ずれをなるべく少なくできると推測される。

また、定量的なデータをはじめとした各評価項目について、毎年度同じ前提条件やフォーマットで事業者から報告書を提供してもらうことで、経年での比較・評価が容易となるほか、事業評価時の最終的なPPP /PFIによるメリットの整理においても有用になるといえる。
評価内容は長期の事業の状況も想像しながら評価項目を検討していく必要があるため、事業評価自体の目的や評価結果の活用用途等を明文化しておくことで、事業の開始時に想定していた事業評価がより適切に行われやすくなると考える。

(2)事業終了時

事業終了時の評価にあたっては、事業期間中における事業者の業務実施状況の把握が必要となるが、長期にわたる事業期間の中で、期間全体を通した事業の実施状況を熟知する自治体等の担当職員が存在することは希少といえる。
また、事業者からの報告書等により、毎月・毎四半期などの決まった期間で行われている事業のモニタリングは、事業期間全体での評価において重要な根拠資料となる一方、評価の基準や評価の意味合い、そもそもの評価対象の定義が事業期間の中で変わってしまうこともあり、事業期間を通じてみると一貫した結果となっていないこともある。

加えて、事業期間中のモニタリングは評価項目等が予め規定されているのに対し、事業終了時の事業評価に関しては、実施が当分先であることから内容を詳述せず、事業期間の終了時に事業期間全体について評価をする、といった大まかな契約規定となっていることもある。その場合、事業評価を行うタイミングで評価の内容や評価方法を検討することとなり、またその評価をどのように活かすかについても、その時の担当者に委ねられてしまいやすい。
なお、事業によっては、自治体等の担当者の異動があまりない場合や、事業期間が比較的短期である場合等、事業評価について特段の問題が生じていない場合も少なくないと推測される。一方で、より事業期間が長い事業ほど、事業終了時の担当職員では把握しきれない事業経緯が多いと考えられることから、事業期間中の評価を蓄積することの重要性が増すといえよう。

事業期間中の事業者の業務実施状況を適切に把握し評価をすること、そして事業終了時に事業期間を振り返り、事業全体を評価し課題やPPP /PFIによる効果を整理するためには、事業者側だけでなく自治体等のモニタリング体制のあり方も重要である。事業評価は、同じ自治体内で検討・実施されている他のPPP /PFI事業にも影響が及ぶ可能性のある重要な工程であることから、評価方法や評価体制については事業組成の検討時から事業期間中において常に意識されるべき事柄であると考える。

4. 将来的な契約満了を見据えたPPP/PFIの推進に向けて

冒頭のとおり、長期のPFI事業はこれから本格的な契約満了を迎える時期に来ており、同様の状況下にあるPPP事業も含めて、所管する自治体等は契約満了を契機としたさまざまな問題に対処することが求められている。一方で、目線を変えれば、契約満了という機会については、次期事業への移行に向けた諸準備の負担こそ重いものの、長期契約ゆえに契約規定や提案内容等について柔軟な変更が難しかった中で、事業の枠組みを抜本的に見直すチャンスと捉えることもできるのではないだろうか。特に当初事業を担当した民間事業者が引き続き事業へ参画する可能性がある場合は、先述のように期中の評価結果を積極的に活用しつつ、次期事業へ参画意向のある事業者全てに対して次期事業の推進に係る提案書等の提出を要請することが事業見直しの契機となりうる。例えば、当初事業にて事業条件(要求水準)の未達が指摘されたことのある事項や、社会潮流等の変化から当初事業における要求水準の充足だけでは本来期待すべきサービスレベルに至らなくなったことなどがあれば、要求水準の再構成・評価基準上の重点項目の設定等を通じて、当初事業からの軌道修正を行うことが有用と考えられる。

また、期中評価の鍵となる当初事業でのデータ蓄積については、次期事業における新規事業者の参入も視野に、事業推進に係るデータの量・質に関して将来的に第三者が理解できるレベルに引き上げることが重要である。そのためには、当初事業の発注段階で、受注した民間事業者に対し情報開示に向けた協力の義務化を求めるとともに、当該協力(情報蓄積・整理業務)に対して相応の費用積算を見込むことが本来的には望ましい。
加えて、類似施設が複数ある中で特定の施設のみに長期のPPP/PFIを導入する場合は、民間事業者の裁量が優先され、収集データやサービス水準について他施設との平仄が合わない可能性もあることから、契約期間や事業特性を考慮したうえで、発注者内でのデータマネジメントのあり方についてもよく精査を図ることが必要といえる。特に、PPP/PFIが普及し始めた頃の事業に関しては、発注者側の事業検討段階においてそのようなデータ収集に向けた各種プロセスへの配慮まではなされにくかったのが実情であり、当初事業に参画した民間事業者としても、長期契約の中で柔軟に対応する余力が無かったケースも想定されることから、当初事業のデータを次期事業で活用していくには一定の課題を残している状況と考えられる。契約上の規定やモニタリングに係る発注者側のリソース等の問題もあるものの、事業の途中からでも次期事業を意識した期中評価の精査・方法上の見直しを図ることで、少しでもより良い次期事業の実現につながっていくことになるだろう。

PPP/PFIについては全国的に普及が進み、長期にわたるPPP/PFI事業を複数組成した自治体等も多数存在する状況になってきているが、今後はPPP/PFI事業の契約満了を複数回経験する自治体等が増加し、期間満了となった事業での契約期間も長期化すると推測される。自治体等においては、事業の組成時だけでなく、期中評価や次期事業への移行経験を踏まえたノウハウ等の構築・継承を図ることで、PPP/PFIの更なる成熟化・高度化と、それを通じたサービス水準向上・事業効率化の進展が期待される。


1 ] 内閣府「PFI事業 基礎データベース
2 ] BT方式(Build-Transfer)とは、民間事業者による施設の設計・建設が完了した後、所有権を公共側に移転する事業方式を指し、所有権の移転完了時点で事業終了となることが一般的である。
3 ] 内閣府 第2回PFI推進委員会事業推進部会 資料2「期間満了PFI事業の検証」(2019年2月26日)
4 ] 当該資料における「次期事業の受注者」に係る調査対象として、当初事業にBT方式をどの程度含むかは明示されていない。BT方式においては、施設の設計・建設が主な事業内容となり、BT方式を当初事業としたときの次期事業が維持管理・運営段階に相当する場合、民間事業者の業務領域の点で、「当初事業を実施した民間事業者とは異なる民間事業者」が次期事業に参画することは自然な流れといえる。逆に言えば、当初事業の事業者が次期事業に参画することはノウハウ等の面で困難なケースがほとんどであるため、BT方式を当初事業と位置付ける場合は、ほぼすべての次期事業において民間事業者は変更という扱いとなり、先述の設問において「当初事業を実施した民間事業者とは異なる民間事業者と契約締結した」とする回答の比率は自ずと高まると考えられる。
5 ] 内閣府 第3回PFI推進委員会事業推進部会 資料2「期間満了PFI事業検証ヒアリング結果」 (2019年11月28日)
6 ] 顧客側が一度導入した商品・サービス等を継続的に購入し続けることにより、別の商品・サービス等への切り替えが難しくなる状態を指す。
7 ] 内閣府「PFI事業における事後評価等マニュアル」(2021年4月)

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