製造業から学ぶ行政のデジタルツインの可能性

2023/04/17 金江 相来、津山 駿
デジタルイノベーション
製造業
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現在、スマートシティやDXの潮流を受けて、行政において、現実の世界を仮想空間で再現する「デジタルツイン」の活用の検討が、地域を問わず活発に進められています。しかし、国内における行政のデジタルツインの活用は、海外に比べると進んでいないのが現状です。一方、製造業においては、機械開発とソフトを融合した「スマートファクトリー」の取り組みのひとつとしてデジタルツインの活用を早くから進めており、他分野と比較して一歩リードしているといえます。そこで本コラムでは、行政のデジタルツインの事例を概観した上で、製造業のデジタルツインの活用方法を紹介し、行政機関における適用の可能性を探ります。

行政のデジタルツイン事例

行政におけるデジタルツインの注目すべき取り組み事例として、都道府県単位では静岡県による点描データを用いた「バーチャル静岡」の構築が挙げられます。また、国土交通省でも、「PLATEAU(プラトー)」と銘打ったデジタルツインプロジェクトを主導し、全国56都市で3D都市モデルの構築を進めています。いずれのプロジェクトも、建物や街並みをデータ化する等、フィジカルな空間での構築が推進されています。

一方、東京都渋谷区では、市民の声を街頭ディスプレイ等に表示し街の課題を可視化する等、建物のデジタルツイン化に留まらず、「市民の考え」という抽象的なものをデジタルツインで再現する取り組みが行われています。ただし渋谷区のように進んだ事例がありつつも、地方自治体や省庁といった行政主導のデジタルツインプロジェクトの多くは、フィジカルな空間情報のデジタル化に留まっています。シンガポールの事例のように、国内の自治体で予測に応じた部署間連携を行うなど、シミュレーションの活用まで到達している事例は限定的です。さらに、デジタルツインで何を再現するのか、デジタルツインを用いて何を行うか等、デジタルツインの有効な活用法は検討の段階です。

【図表1】自治体における3D都市モデルの活用例
自治体における3D都市モデルの活用例
(出所)公式HP等の公開情報(文末「参考」)より、当社作成

製造業におけるデジタルツイン活用の主なアプローチ方法

製造業では、機械開発とソフトを融合した「スマートファクトリー」の取り組みの一つとして、製品の設計や生産などさまざまな段階でデジタルツインの活用が進んでいます。特に生産段階においては、大きく分けて①モデルドリブンアプローチ、②データドリブンアプローチという2つのアプローチがあります。

①モデルドリブンアプローチ

モデルドリブンアプローチは、ロボットや工作機械、生産設備等の仕様や人間の平均的な動きを基に、仮想空間上に動作状況を再現するものです。特徴は、仮想空間上でさまざまな動作状況の再現が可能なものの、取り扱える装置・設備の範囲によって仮想空間上への再現の幅に制約があることです。

②データドリブンアプローチ

データドリブンアプローチは、ロボットや工作機械、生産設備、人間等の実際の動作データを収集し、そのデータを基に仮想空間上に動作状況を再現するものです。特徴は、取り扱える装置・設備の範囲による制約なく、仮想空間上への取り込みが可能なものの、取得可能なデータによって仮想空間上で再現できる状況に制約があることです。

①②いずれのアプローチにおいても、製造ラインのシミュレーションによるスループット改善(時間あたりの処理量)や予知保全によるダウンタイム(稼働停止時間)の削減等、さまざまな課題を解決しています。

このように製造業でのデジタルツインは、製造現場でも既に活用されており、他業界よりも一歩リードしているといえます。

行政が製造業の知見を活用するには

製造業におけるデジタルツインの活用は、前述のようなアプローチモデルが確立されるほどシミュレーションの実績があり、知見が蓄積されています。行政がデジタルツインをシミュレーションの活用にまで発展させる際は、規模の違い等はあれども、製造業のデジタルツインの知見を取り入れることが有効といえるでしょう。

前提として、行政が製造業の知見を取り入れる際には、民間企業である製造業とは共通言語や習慣が異なる等、多くの課題があります。それらを差し引いても、デジタルツインという新たな技術を政策立案・実行に移すため、先進的な活用例から学ぶことは、有効なユースケース創出につながる可能性を秘めているでしょう。

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(参考)
ⅰ 一般社団法人渋谷未来デザインプレスリリース「渋谷区のさまざまなデータを可視化する『デジタルツイン渋谷プロジェクト』スタート!」(2021/11/10)
ⅱ PLATEAU by MILT「PLATEAU Business Challenge 2021」、「PLATEAU Hack Challenge 2021」
ⅲ PLATEAU「大丸有 Area Management City Index(AMCI)」
ⅳ National Research Foundation Prime Minister’s Office Singapore “Virtual Singapore
ⅴ 国土交通省「けいはんなデジタルツインの概要」
ⅵ IES “NTU Singapore

執筆者

  • 金江 相来

    コンサルティング事業本部

    社会共創ビジネスユニット イノベーション&インキュベーション部

    コンサルタント

    金江 相来
  • 津山 駿

    津山 駿
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