任意の指名・報酬委員会の開示(2023年)~(1)設置状況と委員構成~

2024/03/18 工藤 治、石本 来恋
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任意の指名委員会・報酬委員会(以下、任意の委員会)については、従前から「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」(以下、CG報告書)において、委員会の有無、設置状況、委員の構成などを開示するよう求められていました。加えて2023年1月31日に施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令」で、委員会の「活動状況」の開示が必要となりました。
現在、日本企業におけるコーポレート・ガバナンス改革が形式から実質へと深化するために、任意の委員会の体制において、客観性を確保する社外取締役の役割がより重要になっています。加えて、任意の委員会の運営にあたっては、開催・運用状況を含め充実させるよう求められています。これらを踏まえ、本コラムでは、直近の有価証券報告書の記載事項に関する当社調査結果を基に、任意の委員会の設置状況と委員構成について取り上げ、第2回は委員会の活動状況の開示に焦点を当てて解説します。

調査概要

集計対象企業

東京証券取引所「コーポレート・ガバナンス白書2023」記載の全数調査と、時価総額上位100社に絞った当社調査の比較により、傾向差異を確認しました。
(当社調査)
プライム市場およびスタンダード市場上場に上場している企業のうち、各市場の時価総額上位100社から指名委員会等設置会社を除いたプライム76社、スタンダード97社(2023年6月30日時点)。上場市場や企業規模により任意の委員会の設置状況が異なると想定されるため、上記の区分としました。
(白書に記載された全数調査)
「コーポレート・ガバナンス白書2023」(以下、白書[ 1 ])に記載された全数調査。対象はプライム市場上場企業1,837社とスタンダード市場上場企業1,456社

集計結果

(1)任意の委員会の設置有無

任意の委員会の設置割合は、白書によると、指名委員会・報酬委員会共にプライム市場上場会社(以下、プライム)では80%台、スタンダード上場会社(以下、スタンダード)全体では30%台でした。これに対して時価総額上位100社を対象とした当社調査では、プライムでは90%台、スタンダードでは50%台でした。
前提として、白書は隔年で発行されており両データの調査年度が異なるため、単純比較はできません。あくまでも傾向を把握する観点で比較することになりますが、時価総額が高い企業は任意の委員会の設置に積極的である可能性があります。

【図表1】任意の委員会の設置状況
コーポレート・ガバナンス白書2023(全数調査)
任意の委員会の設置状況
(出所)当社作成
当社調査(時価総額上位100社)
当社調査(時価総額上位100社)
(出所)当社作成

(2)任意の委員会における社外取締役の人数

コーポレートガバナンス・コード(CGコード)では、プライムを対象に、任意の委員会における構成員の過半数を社外取締役とするよう求めています。当社調査の対象企業では、プライムでは88%、スタンダードでは73%がこの基準を満たしていました。この結果から、スタンダードにおいても、任意の委員会を設置する会社では社外取締役の役割が重要視されていると言えるでしょう。

【図表2】任意の委員会における社外取締役の人数の状況
任意の委員会における社外取締役の人数の状況
(出所)当社作成

(3)任意の委員会における委員長の属性

当社調査では、任意の委員会を設置している企業のうち、社外取締役を委員長としている企業は、プライムで65%、スタンダードで36%でした。経済産業省のCGSガイドライン別冊である「指名委員会・報酬委員会及び後継者計画の活用に関する指針」(以下、活用指針)では、委員長を社外取締役とする検討を推奨しています。つまり、任意の委員会の機能強化にあたっては、委員長の属性も重要な検討事項となります。

【図表3】任意の委員会における委員長の属性の状況
任意の委員会における委員長の属性の状況
(出所)当社作成

まとめ

今回は、企業による任意の委員会の設置状況と委員構成に関する企業の開示状況を調査しました。その結果、プライムの企業と比較すると、スタンダードの企業には任意の委員会の設置や運営を進展させる余地があり、中でも、社外取締役を委員長とする取り組みは、今後特に検討すべき課題であると示唆されています。
コーポレート・ガバナンス改革を深化させるためには、形式的な側面だけではなく、実質的な取り組みが求められます。具体的には、任意の委員会が実質的に機能するためには、アジェンダを充実させ、実質的な議論を促進することが重要です。社外取締役が委員長を務めることにより、社外取締役の主体的な関与を促し、客観的かつ実質的なアジェンダ設定と議論を深めることが可能となります[ 2 ]。これを実現するためには、社外取締役が中心となる委員会の体制整備が前提条件となります。
当社調査では、プライム、スタンダード共に、現段階では「まずは社外取締役の数を増やす」という状況にあると確認されました。しかし、将来的には、「社外取締役の中から委員長を選出する」ことがより志向されていくでしょう。社外取締役から選ばれた委員長には、実質的な改革推進のための議論をリードする重要なかじ取りが期待されます。プライムの企業はもちろん、スタンダードにおいても、社外取締役を任意の委員会の委員長とすることが実質的な改革への一歩となるでしょう。

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1 ] 2022年7月14日時点で東証のプライム市場、スタンダード市場、グロース市場に株式を上場しているすべての内国会社3,770社が当該時点までに提出したCG報告書データを対象とし、集計している
2 ] 活用指針(separate_guideline2022.pdf (meti.go.jp))においても、「社外取締役以外の委員を委員長とするよりも、社外取締役を委員長とする方が、社外取締役の主体的な関与を引き出し、独立性・客観性と説明責任の強化の観点から、実効的な委員会運営が図られやすくなることが期待される」としている

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