新型コロナウイルスで明らかになったフリーランスをめぐる制度上の課題

2020/06/03 山本 洋平、萩原 理史
雇用・労働政策
フリーランス

1. はじめに

現在、新型コロナウイルス感染拡大に伴う休業要請や、営業の自粛により、企業規模を問わず、多くの事業者の収入が減少している。このような緊急事態下において、会社に雇用されている労働者と比べて、フリーランスは脆弱な立場となっている1。さまざまな産業において、フリーランスは貴重な労働力となっているものの、非常時における保護のあり方について議論が進んでおらず、もし、今回の新型コロナウイルスと同様の事態が発生した場合、現状のままでは再び不安定な立場に置かれてしまう可能性が高い2
本レポートにおいては、新型コロナウイルスにより表面化した、雇用される労働者とフリーランスの間、および事業者とフリーランスとの間に生まれた補償の差について例示し、フリーランスをめぐる現状の議論をおさえたうえで、フリーランスをめぐる制度の課題について指摘したい。

2. 新型コロナウイルスにより表面化したフリーランス保護の課題

本節では、新型コロナウイルスにより影響を受けた際の各種補償制度について、会社員向けの制度、事業者向けの制度を一部例示して、フリーランスへの補償の違いについて比較する。

①新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金・支援金

小学校等の臨時休校に伴い、仕事を休む必要が生じた保護者に対する休暇取得支援のための制度(新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金・支援金)をみると、雇用される労働者に対しては、企業から労働者に対して助成額の全額が支給されるかという問題があるものの、1日一人当たり上限8,330円の助成が企業を経由して支払われる。これに対し、フリーランスへの助成金は、労働時間が決まっていないこと、子どものケア後に仕事ができる可能性があること、雇用保険に加入するのは週20時間以上働く労働者からであること、などを理由に、1日一律4,100円の支給で決着した3。2020年5月26日の厚生労働大臣の会見において、2020年4月1日以降に取得した休暇等に対しては、支給額を労働者に対しては日額上限15,000円、フリーランスに対しては7,500円に引き上げる予定であることを明らかにしているが、フリーランス向けの支援金の金額は、労働者向けの助成額と比較して抑えられている4,5。この事例は、雇用される労働者と比較してフリーランスへの支援が少なくなった事例といえる。

②小規模事業者持続化補助金

事業者向けの支援に目を向けると、小規模事業者や個人事業主は、最大100万円の「小規模事業者持続化補助金」を申請できる。この補助金は、事業実施後に使途が確認され、適正な支出であるかどうか精査が行われるものの、商工業者を対象として、売り上げ減少に関係なく、サービス、卸、小売業は従業員5人以下、製造業その他は20人以下の小規模事業者の取り組みを支援するものである。なお、この補助金に関しては、小規模事業者や個人事業主は、「持続化給付金」とは別に申請することができる6。しかし、「小規模事業者持続化補助金」は、申請時点で創業していることが条件であり、申請時に会社の設立もしくは開業届の提出を求められることから、開業届を出さず個人事業主として活動していないフリーランスの申請は原則認められない制度といえる7,8。こうした事例は、新型コロナウイルスにより影響を受けた中小企業・小規模事業者・個人事業主と比較してフリーランスへの支援が少なくなった事例といえる。

③持続化給付金

新型コロナウイルスにより、大きな影響を受けている事業者は、事業全般に広く使用可能な「持続化給付金」の受け取りを申請できる。本制度は、フリーランスも申請が可能であり、5月1日より受付が開始されている。しかし、事業所得の減少が「持続化給付金」の支給条件となっていることから、フリーランスが確定申告時に雑所得として申告した収入については、売り上げ減少分の計算には加算されず確定申告の方法が異なるだけで、給付対象の要件を満たさないフリーランスが存在することも明らかとなった。現在、経済産業省では、こうしたフリーランスに対しても、業務の委託元が発行した支払い調書などを確認できれば給付を行う方針を明らかにしているが、審査時間は、現在対象となっているフリーランスと比べて長くなることが見込まれており、給付が必要なフリーランスに対し、速やかに給付が行き届くかは不透明である9

これまで、会社に雇用されている労働者と比較して、フリーランスは社会的に不安定な立場に置かれがちであることが多く指摘されていた。しかし、上記の例に代表されるように、新型コロナウイルスによる影響に対する支援のあり方をみると、現状では、フリーランスは事業者としての保護も十分に受けられない立場であると言わざるを得ない。

3.事業者とみなされるフリーランス

今回の新型コロナウイルスによる影響を受けた事業者に対する支援をめぐっては、フリーランスに対する支援が、労働者や他の事業者に対する支援と比べて少ない、もしくは少ない形で検討されがちであることが表出した。しかし、法的な整理において、原則としてフリーランスは、労働基準法上の「労働者」としてはみなされず、小規模事業者や個人事業主と同様に「事業者」としてみなされる。そのため、一般的に労働基準法の適用対象外としてみなされ、事業者としての義務を負って業務を請け負うこととなる10
労働基準法では、労働契約の不履行について違約金を定めることや、損害賠償額を予定する契約を結ぶことはできないとされている(第16条)11。しかし、フリーランスは事業者としてみなされることにより、業務の依頼主と労働契約ではなく、業務委託契約を結び、商品・サービスの提供を行うこととなる。そのため、契約の不履行について違約金を定める契約を結ぶことも可能である。また、労働基準法で使用者に対して求められている「賃金払いの5原則」についても適用されることはない(第24条)12
このように、フリーランスが事業者としてみなされることは、事業者と同様の法律上の義務を負うことを意味する。事業者としてみなされることで、下請法や独占禁止法による保護を受けることができるものの、フリーランスのみへの適用を想定した法律とはなっていないことには留意が必要である。

注)雇用調整助成金に関しては、事業者向けの支援制度であるが、会社に雇用される労働者の雇用を維持することを目的とした制度であることから、ここでは労働者保護を目的とした補償としてみなす。

フリーランスが法的には事業者として扱われることにより、実態として労働者性の高いフリーランスが、会社から雇用される労働者と比較して十分に保護されない問題はすでに各所から指摘されている。原則として、労働者性が認められる業務に従事している場合には、フリーランスであっても労働者としての保護が認められる。日本においても、労働者性が争われた裁判例13が存在しており、実態に応じて労働者性を判断することが求められている。しかし、働き方の多様化に対応したフリーランスの労働者性をめぐる議論に一定の結論は出ていない。
厚生労働省において、2017年10月~2018年3月にかけて「雇用類似の働き方に関する検討会」(全4回)、2018年10月から「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」(現在第19回)が開催されており、フリーランスをはじめとする雇用類似の働き方を行う事業者に対して、経済法の領域での保護とするべきか、労働法制を適用させるべき場合の適用のさせ方、といった点に関し議論が進められている14。しかし、現状に照らして適切なフリーランスの法的な位置づけがいつごろに示されるかどうかは不透明である。

4.フリーランス保護のため求められる方策

ここまで、新型コロナウイルスによる影響を受けた場合の補償の状況を比較しつつ、多様な働き方の担い手として期待されるフリーランスが労働者としても事業者としても十分な保護を受けることが難しい不安定な立場に置かれていることを示した。アフターコロナの時代において、いかにしてフリーランスを保護するべきか早急な検討が求められる。フリーランス保護の方向性としては、以下のような方向性が考えられるのではないか。

①法的に労働者と事業者の中間に新たな概念を設ける
日本において、フリーランスを保護する枠組みを考えるにあたっては、労働者としてみなすか、事業者としてみなすかにより、対象となる法律が大きく異なる。しかし、諸外国に目を転じてみると、労働者と事業者の中間に新たな概念を設け、この新たな概念に該当する者に対して、労働者が活用できる社会保障制度の一部を適用させる国もある。 たとえば、英国の場合、雇用法上「被用者(employee)」と「自営業者(self-employed)」の中間に「労働者(worker)」の枠組みが設けられており、「労働者」であっても最低賃金の保障や有給休暇付与、1日及び週当たりの休息、といった権利や保護を得られる。しかし、2016年には、配車サービスプラットフォームを提供するUber社に対し、ドライバー側が、自らを「自営業者」ではなく、「労働者」としてみなすべきとして雇用審判所に提訴するなど、地位確認のための訴えが相次いだことなどをうけ、より明確な枠組みを設ける必要性も指摘されている15。2018年12月には、英国のビジネス・エネルギー産業戦略省より議会に提出された意見書「Good Work Plan」において、現在の労働市場を踏まえ、既に存在する3つの枠組みを維持したうえで、「労働者(worker)」を、「依存請負業者(dependent contractor)」と改名するべき、と提言されている16,17

アフターコロナの時代においても、多様な働き方の実現が、日本経済の原動力となることは変わらない。今後、日本においても、フリーランスの法的な扱いについて、当事者が容易に判断できるようにしたうえで、適切な保護のあり方について、検討を加速させることが求められる。

②業界の自主的取り組みによるフリーランス保護

「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」においても、フリーランスを労働法制で保護するにあたっての具体的方策や留意点について議論が進められているが、産業ごとにフリーランスの働き方は異なるため、一律の基準の策定は困難であることが予想される。しかし、新型コロナウイルスに限らず、収入減により業界から退出するフリーランスが増加することは、業界の持続可能な発展にとって大きな課題である。
たとえば、興行収入が昨年過去最高となった映画産業は、映画館の営業自粛により大きな打撃を受けているが、日本の映画制作現場に目を転じると、制作スタッフのうち、大半はフリーランスが占めている業界である18。興行収入の減少により映画製作会社が影響を受けているだけではなく、制作現場で働くフリーランスが大きな影響を受けている産業の1つといえるだろう。NPO法人映画業界で働く女性を守る会が今年5月に公表した「新型コロナウイルス感染症による芸能・映像業界で働くスタッフ、キャストへの影響実態調査アンケート 調査報告書」においても、新型コロナウイルスの影響による映像制作の中断・中止による影響を受け、「予定されていた仕事が中止となった」、「中止となった仕事の報酬に関する話し合いがまったくできていない」といった声が多く挙がっていることが報告されている19
フリーランスへの依存度の強い業界や企業においては、労働者性をめぐる議論に一定の結論が出るかどうかによらず、フリーランスを持続可能な発展のために必要不可欠な存在としてとらえ、業界単位や企業単位といった民間主導によるフリーランスを保護するための取組も有益となるだろう。

5.おわりに

以上のように、新型コロナウイルスの影響により、フリーランスが労働者としても事業者としても十分な保護を受けることが難しく、社会的に不安定な立場であることが改めて明らかとなった。フリーランスの保護に向けた早急な議論が必要である。しかし、議論に進めるにあたって重要となるフリーランスに関する統計も不足している20。こうしたフリーランスに関する詳細なデータの不足についても、今後対処すべき課題として指摘できる。
今後、フリーランスが労働実態に応じて適切に保護される環境整備が進み、真に競争的で多様な働き方が実現することが求められるだろう。


1 日本経済新聞(2020/5/9)「コロナ禍が問うもの 多様な働き手に持続的な安全網を」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200509&ng=DGKKZO58881130Y0A500C2EA1000

2 独立行政法人労働政策研究・研修機構による「雇用類似の働き方の者に関する調査・試算結果等(速報)」によると、「自身で事業を営んでいる者」のうち、「雇われない働き方」の者は約188万人、本業にて「雇われない働き方」にて働く者は、約120万人と試算されている。本稿においては、「フリーランス」を、「自身で事業を営んでいる者」のうち、「雇われない働き方」の者を広義のフリーランスとしてみなす(「法人の経営者、個人事業主で「店主」はない者」は含まない)。
https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000523648.pdf

3 朝日新聞デジタルウエブサイト(2020/3/16)「フリーランス4100円「労働時間決まっていないので」
https://www.asahi.com/articles/ASN3J412NN3JUTFK00H.html

4 厚生労働省ウエブサイトより
https://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/0000194708_00247.html

5 厚生労働省ウエブサイトより
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11498.html

6 経済産業省ウエブサイトより
https://www.meti.go.jp/covid-19/jizokuka-qa.html

7 独立行政法人労働政策研究・研修機構による「雇用類似の働き方の者に関する調査・試算結果等(速報)」によると、本稿で広義のフリーランスとして扱う「「自身で事業を営んでいる者」のうち、「雇われない働き方」の者」は約188万人、「法人の経営者、個人事業主で「店主」ではない者」は約202万人と推計されている。
https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000523648.pdf

8 「令和2年度補正予算 小規模事業者持続化補助金<コロナ特別対応型>【公募要領】」によると、補助対象にならない者として、「申請時点で開業していない創業予定者(例えば、既に税務署に開業届を提出していても、開業届上の開業日が申請日よりも後の場合は対象外)」が挙げられており、開業届を提出していないフリーランスの申請は原則として認められないと考えられる。
http://www.shokokai.or.jp/jizokuka_t/doc/公募要領(コロナ特別対応型).pdf?200508

9 日本経済新聞(2020/5/22)「持続化給付金、スタートアップも対象に 経産相表明」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59461770S0A520C2EA4000/

10 労働基準法第9条によると、「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。) に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されている。ただし、労働組合法第3条によると、「労働者」の定義は、「職業の種類を問わず,賃金,給料その他これに準ずる収入によつて生活する者」とされており、と労働基準法上の定義と比較して、労働者の概念がやや広く定義されている。

11 労働基準法第16条
「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」

12 労働基準法第24条
「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。」

13 たとえば、年間を通じて多数のオペラ公演を主催している財団法人とユニオンの組合員との間で、労働組合法上の労働者に当たるかが争点となった最高裁判決がある。
最高裁判所ウェブサイト 「労働事件裁判例集」より (事件番号:平成21(行ヒ)226、事件名:不当労働行為救済命令取消請求事件、裁判年月日:平成23年4月12日、裁判所名:最高裁判所第三小法廷)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/241/081241_hanrei.pdf

14 厚生労働省ウェブサイトより
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01811.html

15 ビジネス・レーバートレンド2017年12号「諸外国におけるシェアリング・エコノミー」より
https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2017/12/002-023.pdf

16 GOV.UKウェブサイトより
https://www.gov.uk/government/publications/good-work-plan/good-work-plan

17 滝原啓允(2020年3月)「イギリス労働法政策におけるGood Work Plan―Good Work Plan に至る背景とその具体的内容」(JILPT Discussion Paper 20-02)より
https://www.jil.go.jp/institute/discussion/2020/documents/DP20-02.pdf

18 映画制作現場で働くクリエイター向けに実施されたアンケート調査結果「映画産業の制作現場に関するアンケート調査(クリエイター票)」によると、クリエイターの回答者のうち76.2%がフリーランスとして働いている、と回答している。
https://www.meti.go.jp/press/2019/11/20191122004/20191122004-3.pdf

19 NPO法人映画業界で働く女性を守る会ウェブサイトより
https://swfi-jp.org/posts/questionnaire/corona-virus-questionnaire-results/

20 内閣府政策統括官(経済分析担当)(2019年7月)「政策課題分析シリーズ17 日本のフリーランスについてーその規模や特徴、競業避止める義務の状況や影響の分析ー」において、「公的統計ではフリーランスに関する直接的な統計」は存在しないことが指摘されている。
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2019/07seisakukadai17-0.pdf

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