債務問題下の高失業を吸収する南欧の経済慣行~イタリアとスペインの事例~

2013/11/11 土田 陽介
調査レポート

○債務問題に苛まれた欧州では、ドイツなど一部の国を例外として雇用情勢の悪化が続いている。その中でも、深刻な失業問題に苛まれている経済は債務問題の震源地である南欧の重債務国である。本稿はそのうちイタリアとスペインの失業問題の現状を、社会不安の緩衝材として機能するセーフティネットの存在に注目して考察する。

○イタリアとスペインの失業問題に共通する特徴として、産業構造に起因すると考えられる「南北格差」と、家父長制に起因すると考えられる「世代間格差」の問題が存在する。もっとも、これらの問題に伴う社会的な摩擦は「非公式経済(informal economy)」による就業機会の提供と、家長による所得移転・再配分という南欧社会特有の経済慣行がセーフティネットとして機能することで、吸収されていると考えられる。

○そうした南欧特有の経済慣行には、確かに短期的には経済調整に伴う痛みを鎮める効能があると考えられる。他方で、非公式経済の存在は、中長期的には経済の不安定性をマクロ・ミクロの両面から高める危険性も有している。また家長による所得移転・再配分も、その持続可能性が所得環境面・社会心理面の両方から限界を有している恐れがある。

○言い換えれば、イタリアやスペインは、そうした欠点が顕在化して経済の持続可能性が削がれてしまう事態に陥らないうちに、債務問題下での高失業への対処を進めていく必要がある。具体的な処方箋は2つに大別されるが、うち1つが、経済の成長力を高めて失業を公式経済で吸収していくことであるが、依然調整過程にある両国の経済が順調に成長していくというシナリオは描きにくい。

○こうした中で求められるもう1つの処方箋が、弾力的な需給調整が可能になるように、労働市場改革を推し進めることである。社会的・文化的に根付く経済慣行に手を入れることには、当然多くの困難を伴うことが予想されるが、両国がどれだけ労働市場改革を推し進めることができるかが、イタリアとスペインの経済の先行きのカギを握るといえるだろう。

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