男性の育休取得

2022/09/01 矢島 洋子

大企業を中心に、男性の育児休業取得推進の取り組みが広がっている。取得率目標100%を掲げる企業がある一方で、休業取得の自発性や取得日数・取得時期の多様性、休業に限らない柔軟な働き方による両立支援を重視する企業もある。

改正育介法による男性育休取得推進

改正育児・介護休業法(以下、改正育介法)により、2022年10月から育児休業とは別に取得可能な「産後パパ育休」が導入される。これまでの育休制度も「子が1歳に達するまで原則2回まで分割取得可」となる。これに先立ち、2022年4月からは、制度の「個別周知・意向確認」「研修や相談窓口等の雇用環境整備」が事業主に義務付けられているが、これらの措置も「男性」の育休取得促進を目的としたものである。2023年4月からは常時雇用1,000人超の事業主を対象に、「男性の育休取得状況の毎年公表」も義務付けられる。

日本の育休制度は、男性が取得可能な期間・休業補償の点からみて先進国の中でもトップ水準であるものの、取得率が極めて低いことが問題とされてきた。1930年代から1950年代に育休制度が導入された北欧諸国やフランスでは、育休制度は当初、産休制度の延長として女性を対象に整備されたため、1970年代頃から男性の取得を促す仕組みが追加的に導入されてきた。日本の育休制度はそうした欧州の制度見直しがすでに行われていた1990年代に導入されたため、最初から両親を対象として設計されており、結果、男性も女性と比べて遜色なく活用できるはずのものになっている。では、なぜ利用率が低いのであろうか。

ポジティブ・アクションとしての取得促進

子育てに限らず労働者の休暇取得意識が高い北欧諸国でも、育休取得の男女差を縮小する取り組みには、長い年月を要している。制度として「両親どちらでも取得できる」ではダメで、「男性しか取れない期間」を設けることで取得率を上げてきた。近年では、すでに「取得率」はターゲットではなく、「取得期間」を男女が同程度にシェアするよう働きかけている。北欧でもこれだけ苦労している背景には、男女の賃金格差や家庭・職場における固定的性別役割分担意識がある。日本でも同様にこれらの問題が改善されていない中で、男性の育休取得を無理に推進する必要はない、との見方もあるが、これらの問題と男性の育休取得とは、いわば「鶏と卵」の関係にあり、一方が動けば他方も動き、互いに少しずつ影響しあって長期的に大きな変化につながる。

将来的には、男女共に、いつどのようなタイミングで育休を取るのか、短時間勤務やテレワークなどの柔軟な働き方とどう組み合わせるのかを自由に選択できる状態になることがゴールイメージだ。男性をターゲットとして取得を促す取り組みは、女性の管理職登用と同様に、過渡的な「ポジティブ・アクション」と認識して取り組む必要があろう。

企業における改正法対応

改正育介法への対応として、日本企業はどのような取り組みを推進すべきか。筆者が多く受ける相談は、「取得目標を設置すべきか」「100%という目標を立てて良いものか」などである。従来から育休取得を積極的に推進してきた企業の中には、取得目標は掲げず、自発的な長期取得の好事例を多く作ることや育休に限らずまとまった休暇を取得しやすい環境づくりに注力する企業もある。一方で、今回の改正前から育休取得100%を目標に掲げ、実際に100%に近い取得率を継続している企業もある。こうした企業では、男女問わず、育休の最初の1週間から2週間を有休化し強く取得を推奨している。悩ましいのは、休暇取得はあくまで労働者の権利であり、事業主が強制できるのかという問題であろう。この取り組みを推進する場合には、男性従業員の「環境さえ整えば休暇を取得したい」という意向の確認を前提としつつ、上司への働きかけにより、実際に休みが取れるような仕事の調整や周囲の理解醸成といった環境整備を行うことが肝要である。今回の改正で創設される「産後パパ育休」は、女性の産後休暇にあたり女性の場合取得が義務であることから、一般の育休よりも100%目標を掲げやすくなるであろうが、この場合も本人の意向を軽視すべきではなかろう。

問題は、男女の育休取得の差だけでなく、休暇取得や柔軟な働き方の選択における子育て社員とその他社員との差にもある。周囲の同僚が長時間労働で休暇も取れない状況で、子育て社員だけが長期の休暇取得を推奨されれば軋轢が生じる。また、長期の休暇取得の影響として、休暇中の所得減少よりも仕事の「機会損失」を問題視する人も少なくない。多くの社員の休暇取得や柔軟な働き方が一般化し、差が縮小すれば、この問題の見方も変化する。

男性の育休取得は、男性も主体的に子育てと仕事の両立をはかるために働き方を変えるきっかけとしての意義がある。取得後の働き方も両立可能なものとなることが必要だ。

家庭では、夫婦が互いのキャリアを尊重しつつ共に子育てを行う。職場では、性別や子どもの有無にかかわらずWLBが可能な働き方と適材適所の配置・アサインを行う。企業は属性の多様性だけでなく、子育てや介護など社員の多様な経験もダイバーシティ経営に生かしていく。結果として、男女の賃金格差の縮小にもつながり、それにより育休取得の男女差がさらに縮小するという好循環が期待される。

(月刊金融ジャーナル「LESSON 女性活躍の今」2022年9月号より転載)

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