MICE誘致力を高めるための「地域らしい」戦略的取組の展開MICEの裾野拡大に向けた「ユニークベニュー」の再定義(3)

2022/05/25 前河 一華
MICE
観光
地方創生

第2部までで、わが国における国際MICEの市場規模は年々拡大し、開催地域に対して莫大な経済効果を生み出してきたこと、さらにはさまざまなMICEレガシーを地域に残すことで、その発展に寄与してきたことを整理した。本稿(第3部)では、わが国におけるMICEの誘致・開催に向けた戦略や取組の概観を紹介し、地域がMICEを誘致する上での課題と意義について整理する。

1.わが国で国際MICEの誘致力を高めるための戦略的取組

(1)グローバルMICE都市の選定による誘致力の選択と集中

巨大な経済効果を生む国際MICEを誘致するには、海外も含めた競合都市との厳しい誘致競争に打ち勝っていく必要がある。わが国では、国際MICE誘致におけるポテンシャルの高い都市として、平成25年(2013年)6月にグローバルMICE戦略都市を5都市(東京、横浜、京都、神戸、福岡)、グローバルMICE強化都市を2都市(大阪、名古屋)選定し、国として集中的な支援を行うこととした。平成27年(2015年)6月にはグローバルMICE強化都市を5都市(札幌、仙台、千葉、広島、北九州)追加し、現在では、これら12都市を統一的に「グローバルMICE都市」と呼んでいる。グローバルMICE都市は、いずれもわが国を代表する大都市であり、都市機能の集積、海外での知名度等のさまざまな角度からみて、高いポテンシャルを有する顔ぶれとなっている。

戦略的に国際MICEを誘致する「グローバルMICE都市」の顔ぶれ

図 戦略的に国際MICEを誘致する「グローバルMICE都市」の顔ぶれ

資料)観光庁

グローバルMICE都市以外でも、金沢市や松江市等、大規模な国際MICEの誘致に奮闘し、実績を残してきた都市もあるが、その顔ぶれは、やはり大都市と競えるほどの都市機能や魅力、知名度を備えている都市であるといえるだろう。

(2)「ユニークベニュー」の活用による誘致力の増強

わが国の都市が海外の競合都市との厳しい誘致競争に打ち勝っていくためのツールとして注目されてきたのが「ユニークベニュー」1である。

MICEのなかでも、これまで関心の中心にあった「国際会議」(C)や「展示会・見本市」(E)では、東京ビッグサイトや幕張メッセなどに代表される、専門の会議場や展示場が用いられることが多い。これは、CやEにおいてはMICE主催者による設備や機能、受入体制等に対する要求水準が高いことから、施設整備が十分になされ、開催実績も豊富な会場での開催に、最終的には落ち着くことによる。

一方で、MICE主催者は、参加者における満足度を高めるため、常に“特別感”を求めているとされる。特別感を演出するために、「ユニークベニュー」の活用はきわめて効果的であり、MICE開催地決定の鍵とされる。実際、JNTOウェブサイトで、代表的なユニークベニューとして紹介されているのは、迎賓館赤坂離宮、モエレ沼公園、山形美術館、鳥羽市立海の博物館、京都二条城、岡山城、グラバー園、沖縄美ら海水族館といった全国的または国際的な知名度の高い歴史的建造物、文化施設や公的空間等である。これらの特別感あふれる会場は、MICEのために建設された専門的施設とは異なり、高度な会議目的や大人数での利用に適した施設では必ずしもない。そのため、会議室ではなく、レセプション会場としての利用が多くみられているが、わが国が誘致するMICEの主力が「国際会議」から「企業会議」に移りつつあるなか、選択されるユニークベニューの種類、その活用シーンのいずれも一層幅広くなっていくと考えられる。

2.国の戦略的取組下での地域によるMICE誘致戦略と課題

(1)MICE誘致に二の足を踏む地域

国がMICE誘致に対して戦略的に取り組んでいるなか、地域としてMICE誘致戦略を明確に打ち出している自治体は、グローバルMICE都市を含めても数えるほどしかない。令和元年(2019年)5月時点で当社が調査した際に、MICE誘致のための戦略や方針等を公表していることが確認できたのは全国9都市で、うち4都市はグローバルMICE都市、2都市はそのほかの政令指定都市、2都市は中核市であった。それ以外は1都市にとどまり、規模の小さな都市ほど戦略や方針の策定率が低下していることがうかがえる。なお、調査時点はコロナショック前であり、現時点でも有効な戦略や方針を掲げている都市は、さらに少なくなっている可能性もある。

経済的効果、社会的効果の両面から見て、MICEの開催によって地域が得られるメリットは大きく、幅広いものであることは確認できたが、実際にMICE誘致活動に積極的に取り組んでいる地域は非常に少ないものと考えられる。さまざまにお話を伺うなかで、地域が誘致活動を行うにあたって直面している課題を大きく3つに整理した。

① 誘致対象とするMICEのギャップ解消

わが国におけるMICE誘致の基本戦略である国際MICEにかかるグローバルMICE都市への選択と集中の戦略を逆からみれば、それ以外の地域は資源の集中的な投資先からはずれていることになる。そのような環境下では、国レベルで展開されている強力な誘致活動に対する印象が強すぎて、グローバルMICE都市以外ではMICE誘致は難しい、取り組んでも成果を得にくいと考えている向きが多い。

② 観光担当部門によるB2B型取組への習熟

一般に観光客誘致は、観光客を対象としたB2C型2なのに対して、ビジネスイベントであるMICE誘致は、その主催者を対象とするB2B型のプロモーションである。そのため、これまで自治体や観光協会、DMO等が取り組んできた一般的な観光客誘致とは性質が異なり、不慣れな取組を強いられる場合がある。ビジネス関連のB2B型の取組に慣れている職員を配置するとともに、外部組織が有する知見やノウハウを有効に活用、導入していく必要があるが、過去に誘致実績がないために、人員や予算の確保が難しいという「にわとりたまご」な状態にある。

③ 施策効果の地域住民に対する可視化と理解促進

MICEという言葉そのものに注釈が必要なことからもわかるように、その一般的な認知度はまだまだであり、MICEレガシーのような概念も浸透していない。わからないものは拒絶の対象となりやすい上に、誘致という形態から「地域の予算を地域外の人(MICE主催者や参加者)に対して使う」かたちであることから、MICE誘致を進めるにあたっては、その意義や価値についての丁寧な説明が必要な段階にある。国が数値で示している経済効果はともかく、自治体がMICEを誘致することによって幅広く地域活性化が図られる、という考え方に対しては、住民の理解がまだ得られにくい。

(2)地域の抱えるMICE誘致の課題解決に向けて

国際MICE、大規模MICEを誘致することによって地域が得られる効果は確かに大きいが、中小規模のMICEの開催でも、経済効果やレガシー効果を十分に享受できる地域も多い。また、地域外から人を呼び込んでさまざまな効果を生み出す、という観光の基本に立ち返ると、国が誘致するMICEには海外からの誘致は必須であるが、地域が誘致するMICEは地域外から誘致できれば、それで十分に魅力的といえる。地域内への経済波及の考え方からは、地域特性に合わせた内容のMICEの方が、地域の隅々まで波及して、得られる効果と実感が大きくなると考えられる。そこで、各地域でそれぞれに「らしいMICE」を定義し、背丈にあった戦略的な誘致に取り組み、期待に沿った経済効果や各種成果をより効率的に得ていくために、関係者で意見交換を行い、戦略として取りまとめておくことが望ましい。

観光客誘致も、ほぼ同様の理由から、以前は理解を得られにくい場合があったが、現在では観光振興による地域への効果について一般の理解も深まり、その効果をふまえた地域内協力も進んでいる。観光客誘致とMICE誘致は、B2C型とB2B型というプロモーション形式の違いこそあれ、その効果の内容や、効果が発生する仕組などは類似していることから、今後、MICE誘致による効果に対する理解が進めば、自治体と住民が同様に協力していけるようになると考えられる。

 


1 日本政府観光局(JNTO)によれば、「ユニークベニュー」とは、歴史的建造物、文化施設や公的空間等で、会議・レセプションを開催することで特別感や地域特性を演出できる会場とされている。
2 旅行業者を対象としたB2B2C型の誘致活動もあるが、その場合も最終的に意識する誘致対象は観光客である。

テーマ・タグから見つける

テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。