今月のグラフ(2024年5月)通貨下落と高インフレに苦しむアルゼンチン

2024/05/07 堀江 正人
今月のグラフ
海外マクロ経済

アルゼンチン通貨ペソの対米ドル為替相場は、2011年以降、経済運営の迷走に対する市場の危機感から大幅に下落した。左派ペロン党政権の野放図な財政運営によって財政赤字が拡大し、インフレ率が上昇したため、ペソ売りが進行、政府は、ペソ売りの加速を止めるために、外国為替に関する種々の規制を導入した。しかし、規制強化を受けて、ドルの闇市場が拡大し、また、多くの市民がペソをドルに替えて退蔵する動きが加速したため、かえってペソ売りドル買いの動きに拍車をかけた。2015年12月にペロン党を破って政権の座に就いた中道右派のマクリ大統領は、就任直後に、経済活動を歪めていた外貨取引規制を緩和し、輸入、観光、投資などに関する外貨購入規制を撤廃した。その結果、公定レートは、闇レートに鞘寄せされる形で下落した。マクリ大統領は、通貨ペソの信用を回復するため2017年にインフレターゲット制度の運用を開始し、インフレ率を2019年までに年率5%以内に抑制することを目指した。しかし、インフレ率が目標を大幅に上回り、インフレターゲット制度の機能不全が明らかになると、2018年にペソ売りが加速、政府は、IMFからの融資を得て、ペソ安は一旦沈静化したが、その後、またペソ安が加速した。2019年12月にマクリ政権が退陣しペロン党政権が復活すると、ペソ安の流れは止まらなくなった。公定レートと非公式レート(ブルーレート)との乖離幅が広がり、公式レートのさらなる切り下げへの期待が高まったことを受けて、輸出の「手控え」が誘発されるとともに輸入が加速され、外貨準備の減少に拍車がかかってしまった。その後、ペロン党を破って2023年12月に新大統領となった右派のハビエル・ミレイ氏は、就任直後に公式為替レートを50%切り下げると発表、ブルーレートとの乖離幅が大幅に縮小した。

上述のようなペソ安は、インフレ率(前年同月比CPI上昇率)を大きく押し上げ、2018年末頃からは、ペソ信認回復のため財政再建を目指したマクリ政権による公共料金値上げの影響も相俟って、50%を超えるようになった。2019年12月に発足したペロン党政権は、通信費の凍結などを含む価格統制を強化し、その効果もあって、2020年下半期には、インフレ率が30%台まで下がった。しかし、2021年には、コモディティの国際価格上昇を受けて、インフレが加速し、2022年以降は、ロシアのウクライナ侵攻によってコモディティ価格がさらに上昇したため、インフレが一段と加速した。2023年2月にはインフレ率が100%を超え、国民生活が窮迫、2023年8月には、市民による白昼の商店襲撃・略奪事件が発生した。2023年12月には、ミレイ新大統領が為替統制を緩和しペソの大幅切り下げに踏み切ったため、インフレ率は200%を超え、2024年3月には、280%台にも達した。ミレイ大統領は、財政再建を柱とする経済改革運営を実施し、ペソの信認回復を目指しているが、4年間の任期での実現は難しいと見られている。中央銀行がコンサルタント・研究所・金融機関などを対象に実施している主要経済指標の予測調査(REM)の2023年12月版によると、2024年通年のインフレ率予測値は213%となっており、当面、アルゼンチンは高インフレに苦しめられることになりそうだ。

図表1 ペソの対米ドル為替レートの推移

ペソの対米ドル為替レートの推移

(出所)公式レート=CEIC、ブルーレート=「BLUE DOLLAR」https://bluedollar.net(2024/04/05)
図表2 アルゼンチンのインフレ率(前年同月比)の推移

アルゼンチンのインフレ率(前年同月比)の推移

(出所)CEIC

テーマ・タグから見つける

テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。