国際通貨研究所 国際金融トピックス
2006.08.10 国際通貨研究所 国際金融トピックス No.119
国際通貨研究所 開発経済調査部 上席研究員 糠谷英輝
原油価格は高水準での推移を続け、中東産油国に巨額の収入をもたらしている。中東産油国の2005年の石油輸出額は5,000億ドルを超え、いわゆるオイルマネー(域外に投資できる経常収支の黒字額)は2,500億ドル程度に上ったと推計されている。このオイルマネーは世界の金融市場に還流し、市場を動かす重要なファクターとなっている。
周知のようにイスラム教においては、利子の存在が否定されている。利子を介在させず、イスラム教の求めるシャリア(人の道)の実践に基づく金融の枠組みを一般にイスラム金融と呼んでいる。イスラム金融資産残高に関して公式統計はないが、イスラム金融機関で約2,500億ドル、それ以外の通常の国際的金融機関で約2,000億ドル程度と推計されている。イスラム金融の理念は資本主義成立以前の社会に根ざすものであるが、イジュティハード(解釈の努力)と金融分野の技術革新により、現代の金融システムとも合致した多種多様なイスラム金融が生まれ、1990年代に至り、急成長を遂げている。前述のようにオイルマネーで潤っている中東産油国からイスラム金融への多額の資金流入があり、またイスラム金融を通じ、これまでの欧米偏重の投資から投資先を分散させることも可能となった。このようなトレンドを踏まえ、マレーシアのようなイスラム国に加え、非イスラム国でもイスラム金融獲得を目指した動きが最近になって加速している。
マレーシアはイスラム金融のハブとなることを国策に掲げており、イスラム金融市場の整備を進めている。2005年のイスラム債の発行額(認可ベース)は433億リンギと前年比で2.8倍に増加した。マレーシアは外国銀行の新規進出を凍結しているが、イスラム銀行は例外で、昨年はカタール、サウジアラビア、クウェートからの3行にイスラム銀行の免許を付与した。昨年、筆者がクアラルンプールに出張し、マレーシア中央銀行(BNM)で面談を行った際、「邦銀でもイスラム銀行の設立は可能であり、新規参入の場合には100%出資も可能である。」との話を聞いた。またマレーシアは獲得したイスラム資金の運用を域内のコアマーケットであるシンガポールに流す方向でシンガポールとの連携を進めてもいる。
そのシンガポールでは、イスラム金融の運用拠点としての規制緩和を急速に進めている。シンガポール通貨庁(MAS)によるイスラム金融の代表的な融資方法である「ムラババ(購買代行=利子の受取を禁じるシャリアに反しない金融手法)」を利用した投資金融商品の解禁、「スクーク(イスラム債)」に組み込む不動産取引に必要な印紙税の撤廃などである。さらにシンガポール取引所は本年2月にイスラム株価指数「FTSE・SGX・アジア・シャリア100指数」を導入した。これはイスラム教が禁じるアルコールなどを扱う企業を除いて、株式指数を算出しようとするものである。またシンガポールはイスラム金融サービス委員会(IFSB)にも加盟した。
オイルマネーは英国経由で世界の金融市場に還流している部分が大きいと見られているが、その英国でもイスラム金融サービスで世界最大の市場となることを目指した施策が進められている。英国のブラウン蔵相はロンドンをイスラム金融センターとすべく、金融機関がイスラム金融サービスの提供を拡充できる環境整備の方針を示し、利払いを禁止するシャリアにのっとった預貯金口座や住宅ローンサービスを合法化する一連の対策が進められている。金融機関はこれに先んじてイスラム金融商品の提供を始めており、HSBCがシャリアに従った投資商品を販売している他、ロイズTSB銀行も本年6月13日に、国内でイスラム教徒向け金融商品(当座預金と不動産ローン)を発売すると発表した。
このようにイスラム金融は非イスラム諸国にも広がりを見せてきている。イスラム金融の最大のポイントは当該金融取引がシャリアに照らして適格かどうかという点であり、あとは様々な一般的な金融取引の枠組みを使って取引されるものである。適格かどうかの判断は各金融機関に設置されるシャリア委員会が行うことになっている。こうした枠組みさえ整えれば本邦の金融機関でもイスラム金融を取り扱うことも可能であるが、現実にはイスラム投資家の信頼を得てイスラム資金を取り込むなど、イスラム金融に関するビジネスモデルを構築することは容易ではない。しかしイスラム金融が非イスラム諸国にも拡大してきていること、資金の受け手はコストが安ければイスラム金融を利用することを厭わず、実際に日系企業でも資金調達で利用していることを考え合わせれば、本邦の金融機関においてもその対応が課題の一つとなろう。
(注)
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