眞野輝彦コラム
2009.07.21 「乗数効果の重要性」
―ケインズ理論のもう一つの側面―
J. M. Keynesが市場調整機能の限界を打破するために公共投資政策を打ち出し、その背景に失業の存在があったことはよく知られている。しかしケインズが同時に発展させた公共投資の効果を決定する乗数理論への認識はわが国では薄いようである。麻生内閣の10兆円を超える公共政策に即して乗数効果を考えてみたい。
まず乗数効果が期待される政策は、エコ・カーや地球にやさしい電気器具などへの支援措置である。ハイブリッド・カーへの需要に生産が追いつかない状況を生み出し、生産、雇用に繋がるからである。民間側の特別ポイントなどとの相乗効果も期待されている。ただこの政策が需要の先取りだけに終わる可能性もあることと、供給過剰構造がどのように調整されるのかという課題が残っていることを忘れてはならない。
乗数効果があまり期待できないのは、総額2兆5千億円にのぼる雇用調整補助金である。企業休業時の雇用を維持するために、中小企業には人件費の9/10を、大企業には4/5を支援・補填する対策である。支給を受ける人たちが、支出を休業が始まる前以上に増やすとは思えないからである。休業がいつまで続くのか、支援に時限性があることなどを考慮すれば当然であり、ましてや消費税率の引き上げに繋がる可能性があれば尚更である。勿論、雇用の確保は大切である。しかし同時に借金をして行う政策の波及効果を重視することが大切である。乗数効果が1以下、即ち1の公的支出のGDP押し上げ効果は1以下ということになると、国の借金が累積することになるからである。
グローバル化が進む現在の世界経済は、国民経済が封鎖システムであったケインズ時代とは大きく異なっている。しかも主要国の財政赤字が同時に拡大している現状では、日本の貯蓄が日本に投資されるとは限らない。2011年度までに財政のプライマリー・バランスを均衡させるという政策目標は棚上げされた。総選挙が近づくなかで、各党がマニフェストに掲げる経済・財政政策の乗数効果を見極めることは肝要である。
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眞野 輝彦 (まの てるひこ) | ||||||||||||||||
| 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 客員研究理事 | |||||||||||||||||
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(注)
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