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眞野輝彦コラム
2010.01.04 「企業収益と賃金のデカップリング」
―日本の高貯蓄率は過去の神話に―
日本が抱える最大の課題は公的部門の債務問題である。日本国内には国債購入資金が十分あり、外国から借金する必要はないとの前提が崩れ始めているからである。この原因は二つに大別される。
第一は、日本の貯蓄率が3%を割り込むまでに急落し、過剰消費を批判されてきた米国の家計貯蓄率(4.7%)をも下回っていることである。老齢化進展による貯蓄取崩し(マイナス貯蓄率)が全体の貯蓄率を引き下げている。年金の減額も予測される少子高齢化が進む社会では、貯蓄取崩しは自然の成り行きである。かつて高すぎると非難された日本の貯蓄率は過去の神話になっている。
貯蓄率を回復させる手段は所得政策と価格政策の二つがある。しかし所得政策、即ち平均可処分所得の引上げはほぼ不可能に近い。グローバル化で高い国内労働力は安い海外労働力との競争にさらされているからである。いざなぎ景気と比較された前回の景気上昇期でも賃金は下落している。企業収益と賃金はデカップル(関係切断)されていることの証左である。そうなると減少する賃金の実質購買力を上昇させる価格政策、即ち価格引下げ以外に方法はない。円高はその有力な手段である。デフレが騒がれているが、割高な日本の生活物価(住居を含む)の国際価格への収斂は、グローバル化する市場経済社会では当然のことと受け止めなければならない。
第二は、日本の貯蓄が海外に流出し、同時に海外からの資金流入も減少していることである。ゼロ金利が原因であることは言うまでもない。この歯止めが円高である。円高による海外証券投資の採算の悪化が海外高金利を求める貯蓄流出のブレーキになるからである。他方、海外投資家には金利が安い上に円価値の上昇が見込まれなければ、円建国債や株式の購入を躊躇するのは当然である。円高が、金利は低くても円建資産を保有する魅力を増加させることになる。経常赤字に悩む米国が強いドルに執着するのも同じ理由からなのである。円高は輸出に悪影響を与えると騒がれがちだが、実質実効為替相場はむしろ円安に振れている。また円高は家計の実質購買力を引き上げるばかりでなく、企業、公的部門にもコストを低下させるメリットがある。
円高問題一つ考えてみても従来とは異なる尺度が必要な世界経済環境の変化である。新しい環境に適応するための新しい価値尺度は何かを再考し、過去の陳腐化したパラダイムから脱却することが新年の課題と思料する。
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眞野 輝彦 (まの てるひこ) | ||||||||||||||||
| 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 客員研究理事 | |||||||||||||||||
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(注)
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