飲食業界において求められるDX化とは

2022/10/04 大石 皓斗
DX
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データとデジタル技術を活用して、製品やサービス、ビジネスモデルを変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が広がり、業界や業種を問わず事業成長において不可欠な要素となっています。しかし、業界ごとに分類して取り組み状況を俯瞰すると、意外な傾向が見えてきました。

東証プライム/スタンダード/グロース市場に上場している売上高500億円未満の企業を対象として、各社のHPで公開されている中期経営計画/経営計画 等に、「DX」に関連する方針や取り組みが含まれているかを調査すると、全業種の中で飲食業(外食・中食)が極めて低い(30.8%)結果となりました(図表参照)。新型コロナウイルスの感染拡大といった社会情勢を受け、事業環境が大きく変わったように見受けられる飲食業界ですが、業界全体ではなぜ取り組みが遅れているのでしょうか。本コラムでは、飲食業界のDX化について、現状を整理した上で、事例を参考にしながらあるべき姿を考えます。

【図表】 中期経営計画から見る業種別のDX関連の取り組み状況(2022年6月調査時点)

図 中期経営計画から見る業種別のDX関連の取り組み状況

(出所)各社HPより当社作成

飲食業界におけるDXの現在地と展望

飲食業界におけるDXを阻害する要因のひとつとして挙げられるのが、デジタル化に対する従業員や顧客の抵抗感です。飲食業は「人」による対面コミュニケーションが提供価値の中心に組み込まれているため、対人サービス志向が強い従業員も多く、サービス提供の機械化に抵抗があるケースも見られます。また顧客視点では、「人」による「柔軟なサービス」や「もてなし感」を求める見方もあり、機械化によりその価値が失われると感じられる場合があります。しかしながら、新型コロナによる非対面・非接触ニーズの高まりにより、飲食業界でも徐々にデジタル化が進展しています。また、これまでDXが遅れていた業界であるがゆえに、デジタルサービスの活用による業務効率化の余地は大きいと考えられます。

事例から紐解くDX化のポイント

では、飲食業界における先行事例から、DX化におけるポイントを見ていきましょう。

大阪府を中心に和食レストランチェーンを運営するがんこフードサービス株式会社は、歴史的建造物を活用したレストランで手頃な価格の懐石料理を提供する「お屋敷」の店舗において、配膳ロボットを活用した労働生産性の高いオペレーションを導入しています。従来から工学アプローチによるオペレーションの自動化や効率化を進めてきたものの、歴史的建造物を生かした店内であるがために、個室を利用するお客さまへの配膳の際にはロボットが顧客の側まで近づけないという課題がありました。そこで、完全な自動化を目指すのではなく、厨房から個室まで自動で料理を運び、最後は従業員が手渡しする仕組みを導入しました。導入の際には、プロジェクトの初期から現場従業員と技術者が一丸となって検討を進めたことで、現場オペレーションに即した仕組みの導入に成功しています。

また、ワタミ株式会社が運営する焼肉店においても配膳ロボットが活用されています。一般に焼肉店は注文数が居酒屋の3倍と言われ、それに伴って運ぶ皿の数も多くなる傾向にあります。同社では料理を運ぶ搬送専用レーンと、レーンの届かない客席に届ける配膳ロボットとを組み合わせて導入することで、スタッフ数を従来の約1/3に抑えています。加えて、お肉のおいしい焼き方をプロの料理人が解説するコンテンツを座席のタブレット端末に用意するなど、デジタルを活用した顧客満足度の向上も同時に実現しています。これらの業務効率化の要因について、同社は新たな店舗開発の初期段階からロボット導入を織り込んでいたことが大きいとしています。

これらの事例から、飲食業界におけるDX化を推進する上で重要なポイントを三つ挙げられます。

一つ目は、現場起点でテクノロジーの活用方法を徹底的に検討することです。そのためには、技術的な視点のみに偏ることなく開発段階から現場従業員の意見を吸い上げ、現場のオペレーションに即した仕組みを模索する必要があるでしょう。

二つ目は、顧客視点に立った仕組み作りです。提供者側の論理だけを前提に業務効率化を進めては顧客が離れてしまいます。顧客体験を考え、デジタル化に対する抵抗感等も考慮に入れたうえで、デジタルに置き換える部分と「人」によるサービス部分のバランスを検討する必要があります。

三つ目は、単に既存業務をデジタルに置き換えることに止まらず、デジタルツールやシステムにあわせて店舗や業務プロセス自体を変化させることです。具体的には、ロボット活用を前提とした店舗スペースの再設計や「人」が行う業務の再定義等が挙げられます。

求められるDX化の姿

飲食業界では、業務の完全なオートメーション化は難しく「人」が行うべきサービスは少なからず残ります。しかしながら、将来的な人口減少に伴う人手不足は不可避の課題であり、デジタルと「人」のハイブリッド型への業務変革はいずれ求められるはずです。そのためには、DXを単なるデジタルツールの導入で終わらせず、現場の声を生かしながら、顧客の視点に立ってサービス設計を進化させていくことが必要です。

DXをうまく活用し、「人」が行うべきサービスに注力できる体制を構築した企業が、競争力を高めていくと考えられます。

【経営戦略・経営計画ページ】
https://www.murc.jp/service/keyword/01/

【資料DLページ】
中堅中小企業における中計策定状況とトレンド反映型中計の必要性

 

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