新しい時代のガバナンス(1)日本企業を取り巻く経営環境

2023/07/10 阿部 功治、中山 尚美、船木 陽介
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日本企業(あるいは日本全体)の競争力低下や停滞を憂う声が聞かれるようになって久しいなか、それに追い打ちをかけるかのように、グローバルベースで企業経営の根幹を揺るがしかねないリスクは、ますます多様化・複雑化する一方です。本連載では、こうした難しい状況のなかで、日本企業が競争力を高め成長のモメンタムを取り戻すためには、何が課題なのか? 何をすべきか? ということについて、「ガバナンス」の視点から論じていきます。

日本企業を取り巻く今日の経営環境 ~「新しい時代」の概観~

本コラムでは、「新しい時代のガバナンス」というタイトルを掲げていますが、そもそも「新しい時代」とはどのような状態を指すのか、企業経営を取り巻くリスクの観点を中心に概観しましょう。近年では、グローバルベースで企業経営の根幹を揺るがし得るリスクがますます多様化・複雑化しており、実際に顕在化したものも多数あります。たとえば、気候変動リスク、サイバーリスク、パンデミック、さらに、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻をはじめとした地政学リスクと、それに伴うエネルギー価格の上昇、世界的な物価上昇、金利上昇等が挙げられます。また、その背景にあってさらなるリスクを誘発し得る状態――すなわち「グローバル化の後退/分断と多極化」、さらには、グローバル化を前提とし、その前提に依存してきた「国際的な規制・ビジネス基盤の弱体化」といったことも想定しておく必要があります。このように、我々が今まさに生き抜こうとしている「新しい時代」というのは、将来の見通しを立てることが非常に難しいものといえるでしょう。グローバル市場で勝負する経営者は、多様で先読みが難しいリスクを考慮した意思決定を行うことが求められます。経営者の適切な意思決定を支援・担保するために、企業経営におけるリスク管理の強化――特に、エマージングリスクの管理やレジリエンストな態勢の整備が、これまでになく重要になっています。

日本のグローバル競争力は相対的に低下

「新しい時代」というのはこのように大変難しい時代です。しかし、こうした状況に置かれてもなお、日本企業や日本社会は抜本的に変わろうとせず、過去の成功体験やそれによって形作られた長年にわたる慣習・文化から、いまだに抜け出しきれていないように見えます。その帰結とまで言い切るのはやや早計なのかもしれませんが、現実に目を向けてみると、かつて主要国中トップだった日本企業のグローバル競争力は年々失われてきており、今では長期低迷から抜け出せない状態が続いています。過去20~30年の間に、相応の成長を成し遂げた他の先進国や主要な新興国との差は大きく広がってしまいました。IMD(“International Institute for Management Development”国際経営開発研究所)が発表した2023年度の世界競争力ランキングでは、日本は64カ国中総合35位と前年の34位からさらに順位を落とし、過去最低の結果となりました。特に「ビジネス効率性」の分野では47位と低迷が続いています。

【図表】IMD世界競争力ランキングにおける日本の順位の推移
IMD世界競争力ランキングにおける日本の順位の推移
(出所)IMD World Competitiveness Ranking 2023 Resultsを基に当社作成

第1回では、新しい時代のガバナンスを論じるための出発点として、日本あるいは日本企業が置かれている現状について俯瞰しました。第2回は、日本企業のグローバル競争力の現状を概観しつつ、「ガバナンス」が果たし得る役割について考察していきます。

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