中小企業がDXを推進するためのプロセス

2024/01/15 松本 敏良
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「DXレポート2.2」[ 1 ]が2022年7月に発表され、変革に向けたアクションが提示されています。これまでは、ビジネスの付加価値向上や新事業開発よりも業務効率化に関するDXの取り組みが多かったと思われますが、生成AIの出現により、各企業は付加価値向上へのDXの取り組みを意識し始めています。DX推進指標の提出状況[ 2 ]からも、中小企業のDXへの意識が高くなっていることが読み取れます。では、DXを企業内で推進するためには、どうすればよいでしょうか? 本コラムでは、中小企業がDXを推進するためのプロセスをお伝えします。

四つのプロセス

DXを推進するために、四つのプロセスを進めます。そのプロセスとは、STEP1:目的の明確化、STEP2:現状分析、STEP3:組織組成、STEP4:対応実施です。

STEP1:目的の明確化

DXを推進するためには、まずその理由を明確にする必要があります。目的が「売り上げ拡大」であれば、「既存製品や既存サービスを拡張するDX」に取り組む必要があります。同様に、目的が「業務効率化」であれば、「原価や間接費を低減できるDX」、目的が「新事業創出」であれば、「新製品や新サービスに応じたDX」に取り組む必要があります。
目的を明確化した後は、ビジョンの発信も重要です。経営者のDXへの取り組みが全社的な活動になりやすく、関係者が増えることで良いアイデアの創出機会が増加します。また、ビジョンの存在により、担当者は目的に向かって進めます。さらに、外部へビジョンを発信することで、企業同士のつながりができ、他企業との協業や、ブランド力の向上にもつながります。

STEP2:現状分析

次に、現状分析に取り組みます。その理由は、「DXを適用できる箇所」や「システム環境をどのように構成するか」などの事前情報を得るためです。
現状分析は、主に業務面およびシステム面を切り口として実施します。まず業務面では、DXの目的に沿った「対象業務」、「対象業務の業務フロー」、「どこでどのようなデータが生成されるか」などを分析します。システム面では、「現在のシステム構成」、「保存データの有無や、どのような状態で保存されているか」、「適用する技術は導入可能か」などを分析します。
この現状分析により、DXを推進するために取り組むべき三つの事項が明確になります。①DXに取り組むべき対象領域、②データ整備・準備など事前に実施する事項、③スモールスタートに向けた最小のシステム環境です。

STEP3:組織組成

続いて、組織組成に取り組みます。DXを推進するために、現在の組織構成や、各部門の特徴などを考慮した組織組成が必要となります。DXに取り組む段階により、DX推進部門をどう配置するかが変わります。
また、昨今、IT人材の不足がうたわれており、今後はさらなる深刻化が予測されています[ 3 ]。そのため、10年後の情報システム部の在り方を考慮して、人材不足への対応も進める必要があります。方法としては、採用強化や育成、外部組織との協力が挙げられます。採用強化では、即戦力人材の獲得競争が激化することが予想されるため、採用後の育成も含めてどのような人材を採用していくかの検討が必要です。育成では、社員に向けた業務効率化ツールの利用環境や教育機会を整備し、自律的にツールを利用して業務改善に取り組む風土を醸成していく方法や、システムの知見がある社員に情報システム部へ異動してもらい、積極的に情報システムに関する経験の機会を付与する方法があります。外部組織との協力では、自社での対応が難しい箇所、スピードが求められる箇所は外部の力を利用することが賢明です。今後、外部組織も人材不足になることが考えられるため、将来を見据えて、協力できる企業の選定やつながりを強化していくことを推奨します。

STEP4:対応実施

最後に、対応実施です。「スモールスタートによる成功体験の積み重ね」と、「中長期計画を推進するためのPDCAサイクルの定着」が重要となります。PDCAの「P」では、中長期的な計画と、スモールスタートや段階的な拡張計画を立案します。「D」では、計画を実行します。「C」では、定期報告会の設定を行い、進捗状況や課題の確認を行います。「A」では、次のサイクルに向けた課題対応策の検討を行います。
また、DXの推進に当たり、データ分析やAI、IoT関連のサービスが充実してきているクラウドサービスの利用が考えられます。生成AIのサービス提供を開始しているクラウドも複数出てきており、特徴を理解した上で、利用するクラウドサービスを決定する必要があります。さらに、システム環境にも変化があり、かつ、サイバー攻撃も増加傾向にあることから、セキュリティー対策に取り組むことも必要です。セキュリティー対策は、技術的対策や教育などの予防措置だけではなく、攻撃された後の状況を想定した体制構築や訓練が必要となります。

以上の四つのプロセスにより、DXを推進します。「人材不足」と「投資対効果を踏まえた投資決断」は中小企業にとって大きな課題だと考えられるので、STEP2およびSTEP3に注意しながらプロセスを進めることをお勧めします。

【図表1】DXを推進するためのプロセス
DXを推進するためのプロセス
(出所)当社作成

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1 ] 『DXレポート2.2(概要)(2022年7月)』経済産業省, 002_05_00.pdf (meti.go.jp), (最終確認日:2023/12/18)
2 ] 『DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2022年版) 概要版』,P.5,独立行政法人情報処理推進機構, DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2022年版)概要版 (ipa.go.jp) , (最終確認日:2023/12/18)
3 ] 『-IT人材需給に関する調査- 調査報告書(2019年3月)』, P.20, 経済産業省,
houkokusyo.pdf (meti.go.jp) , (最終確認日:2023/12/18)

執筆者

  • 松本 敏良

    コンサルティング事業本部

    デジタルイノベーションビジネスユニット 業務ITコンサルティング部

    シニアマネージャー

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