自治体再編:市町村合併一巡で次の焦点は道州制

2009/03/02 大塚 敬
自治体経営

わが国における都道府県制度の見直しとその具体的な方策としての道州制にかかる議論の歴史は古く、昭和32年には第4次地方制度調査会において、都道府県制度を廃止し国と市町村の中間団体として国と地方自治体の両方の性格を併せ持つ「地方」という団体を新設すべきであるとの提案が既になされていた。その後、道州制はさまざまな議論が重ねられつつも実現せずに今日に至っているが近年改めて注目され、平成18年2月の第28次地方制度調査会答申において、広域自治体改革の具体策として道州制の導入が適当であるとの見解が明確に示されたことにより、導入の機運が急速に高まっている。
こうした背景には、地方分権の受け皿として地方自治体の抜本的な改革が不可避となったことがある。少子高齢化と人口減少、経済の低成長への移行などにより、すべての地方自治体を現状のまま維持するのは困難であることが明確になった。これに対し、国はまず地域において包括的な役割を担う市町村を、最低限の行財政基盤を確保可能な規模に再編すべく、市町村合併を強力に推進した。この結果、平成10年度末と比較して平成20年12月時点で市町村数は3,232から1,781に減少した。現在、市町村合併は平成の大合併と言われた平成16~17年度から一段落しており、次の焦点は都道府県の再編に移ったと考えられる。合併により市町村の大規模化が進み、政令指定都市数は12から17、中核市数は21から39に急増している。また、各都道府県の市町村数も、平成11年4月1日時点では市町村数30以下の都道府県はなかったが、平成21年1月1日時点では30以下の団体が19に上り、うち9団体は市町村数が20以下となっており、市町村と都道府県のバランスは大きく変わった。
また、道州制導入の機運が高まっている背景には、都道府県間の格差の拡大と小規模県の行財政基盤の弱体化もある。平成17年国勢調査の時点で、東京都の約1,260万人を筆頭に、500万人を超える都道府県が9を数える一方で、人口が100万人を下回る県が7県に上る。最も少ない鳥取県の人口は60.7万人で東京都の約20分の1であり、政令指定都市で最も人口が少ない静岡市の71万人をも下回っている。また、人口規模の小さい県ほど人口減少が進展する傾向にあり、国立社会保障人口問題研究所の推計によれば、2035年には人口が100万人を下回る県の数は15に増加し、鳥取県の人口は約49万5千人と政令指定都市の基本要件をも下回ると見込まれている。
一方、こうした状況の中、約360万人の人口規模をもつ横浜市は、その人口規模と都市機能の高度な集積に見合った権限を求めて、新たな大都市圏制度を自ら提言している。これは、横浜市や大阪市、名古屋市など特に人口規模の大きな都市に対し、政令指定都市の枠組みを越えて、都道府県や将来の道州の下に組み込まれることなく、広域自治体に委ねていた権限をすべて掌握する自治体としての位置づけを求めるものである。
このように地方分権が進展し、その受け皿となる市町村の行財政基盤が強化される一方で、小規模県の人口減少が避け難い状況から見て、自治体再編という大きな流れの中で、市町村合併の次のステップとして都道府県の再編と役割の見直しは必至であり、その具体的方策として、長い間議論されてきた道州制が近い将来ついに実行に移される可能性が非常に高い。
平成19年1月に政府が設置した道州制ビジョン懇談会は、平成20年3月に中間報告を公表、道州制の実現に向けた道州制基本法の原案を平成22年内に作成し、平成23年の通常国会に提出、最終的には平成30年までには道州制に完全移行すべきであると明記している。懇談会は、当初想定していた本年1月の基本法骨子案の策定は見送ったものの、予定通り平成23年通常国会への法案提出に向けて審議を続けている。
今後は、具体的な制度の枠組みの調整と、受け皿となる広域自治体側の体制整備の両面から、具体化に向けて慎重に、しかし迅速に準備を進める必要がある。前者において課題となるのは区割り調整と国から道州への権限委譲の内容であり、懇談会での議論においてもこれらが大きな焦点になっている。特に区割りについては、有利不利の議論だけでなく、地域の歴史的文化的な背景も含め、都道府県それぞれの思惑もあって今後調整が難航することが予想される。また権限についても、懇談会中間報告では国の役割は国境管理や国家戦略の策定、国家的基盤の維持・整備、全国的な統一基準の制定に限定すると明記されているが、具体的な内容を検討する段階では、これまでも地方分権や規制改革に際して繰り返されてきたように、国と地方の綱引きによる調整難航は必至であろう。
さらに課題となるのは道州政府の体制整備であり、中でも特に重要な点は財政運営の中核を担う人材の確保である。現在検討されている案をベースに予想すると、欧州の中規模国に匹敵する人口規模の道州が複数誕生する可能性が高く、その権限も従来の都道府県と比べて大幅に拡大強化される。道州の政府には、従来よりも飛躍的に拡大した財源と権限を駆使して、これまでの都道府県の枠を超えた、まったく新しい視点に立った政策を企画立案し実行する能力が求められる。その中核的な役割を担う幹部となる人材は、従来の都道府県職員の育成や、地方支分部局の廃止など権限縮小によって余剰となる国の職員の活用だけでは十分に確保することは困難である。これを地方行政の人材登用システム改革の好機ととらえて、新卒中心の採用システムや任期付任用など課題が多く指摘されている従来の民間人材登用に係る制度を抜本的に見直し、外部の有能な人材を機動的に登用する仕組みを再構築することが、道州制の成否の重要なポイントとなると考えられる。

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