初職からみる非正規雇用の現状と課題

2010/03/29 横山 重宏
雇用

2008年9月のリーマンショック以降に生じたいわゆる「派遣切り」を契機に、非正規雇用に係る問題に注目が集まっている。非正規雇用については、現在、厚生労働省などで具体的な対応策が検討されているが、ここでは、これまであまり注目されて来なかった「初職」に着目して、非正規雇用のあり方について検討してみたい(「初職」とは、最初に就いた仕事のことであり、通学のかたわらにしたアルバイトなどは含まれない)。
図表1は、学校卒業後の初職について、自営業主などを除く雇用者の中での非正規(厳密には、正規の職員・従業員以外の雇用者)の割合の推移を示したものである。これをみると、初職が非正規の割合は2006年10月以降に初職に就いた者では男性が35.6%、女性が57.9%となっている(総務省「平成19年就業構造基本調査」)。特に女性については初職が非正規の割合は過半数を占める。なお、非正規の中でも、初職が派遣労働者の割合は男性が4.3%、女性が5.4%であり、非正規割合の増加要因の一つであることが分かる。さらに、ここで注目しておく必要があるのは、初職が非正規の割合は、1980年代以降一貫して増加傾向にあり、景気変動で増減するのではなく構造的な変化であることである。

図表1 初職における雇用者に占める非正規雇用の割合

初職における雇用者に占める非正規雇用の割合

(出所)総務省「平成19年就業構造基本調査」

では、こうして初職が非正規だった者について、その後、雇用形態はどう変化しているだろうか。図表2は初職が非正規だった者について、現職が正規の割合を現職の年齢階層別に示したものである。これをみると、初職の非正規から、その後正規になる割合は総じて低いといえる。その中では、女性は男性よりも低く、また男性の中では初職が派遣労働者(多くが製造現場での派遣労働者と考えられる)で低い。初職での非正規割合や、その後の正規への転換(登用)がこれまでのトレンドで推移すれば、近い将来、我が国の雇用者の過半数が非正規になると考えられる(雇用者全体に占める正規の割合は2002年には68.0%、2007年には64.5%である。(総務省「就業構造基本調査」)。

図表2 初職が非正規雇用の雇用者の中で現職が正規の職員・従業員の割合

初職が非正規雇用の雇用者の中で現職が正規の職員・従業員の割合

(出所)総務省統計局「平成19年就業構造基本調査」

非正規雇用が拡大した背景は様々である。企業で非正規雇用(正社員以外の労働者)を活用する理由をみると、「賃金の節約のため」(40.8%)、「1日、週の中の仕事の繁閑に対応するため」(31.8%)、「即戦力・能力のある人材を確保するため」(25.9%)が上位を占める(厚生労働省「平成19年就業形態の多様化に関する総合調査結果(事業所調査)」)。その中で、初職が非正規の雇用者に対してのデータはないが、活用する企業にとって即戦力を望むことは難しいと考えられることから、上記の「賃金の節約のため」、「1日、週の中の仕事の繁閑に対応するため」を主な要因として活用されている可能性は高い。
実際、非正規雇用者が現在の就業形態を選んだ理由をみると、(こちらも初職が非正規のみデータはないが、)25~29歳では、「自分の都合のよい時間に働けるから」(40.9%)が最も多いものの、「正社員として働ける会社がなかったから」(33.3%)が次いで多い。雇用形態別には、とりわけ派遣労働者で最も多い理由に「正社員として働ける会社がなかったから」(37.3%)が挙げられている。(厚生労働省「平成19年就業形態の多様化に関する総合調査結果(個人調査)」)
このように正規社員を希望しながらも、初職から非正規としての就業を余儀なくされた労働者に対しては、政策対応が是非とも必要だ。ただし、近年の非正規社員の増加には、多様な働き方を求める労働者側のニーズに、中長期的な経営リスクを高める企業側の活用ニーズが合致している部分(層)がかなり多い。そのため、非正規から正規への半ば強制的な転換策は、企業のみならず、最終的に労働者の雇用の安定にもマイナスの影響を及ぼしかねない。個々の非正規社員が置かれた状況や希望する就業形態に適切に対応できる政策が求められる。
基本的には、学校卒業者などを正規社員として採用することや、現状いる非正規社員を正規社員に登用・採用などで戦力化することが自社にとってメリットになるモデルを提示していく取り組みが欠かせない。正規社員と非正規社員の職務体系を一本化したり、非正規社員を積極的に正規社員に登用したりすることで人材活用を強化し成果をあげている企業の例を、これまで以上に積極的に周知することが求められる。同時に、正社員採用や非正規社員の戦力化を阻害する制度の改善や、促進する制度の創設を大胆に進めていくことが必要であろう。加えて、こうした企業側の取り組みや制度改善を進めることは、とりもなおさず、初職で正規社員を選ぼうとする(なりたい)学校卒業者を増やすことにもつながる。
20歳代の非正規社員の多くが「自分の都合のよい時間に働けるから」を理由として非正規雇用を初職に選ぶ傾向があるが、これにも注意が必要だ。現状では一般に非正規社員は正規社員に比べて、雇用が不安定であり処遇も低い。また、教育訓練の機会も少ない。こうした現状を学校卒業者が十分に知った上で、自分の職業や働き方を選ぶようにしなければならないだろう。多様化な雇用形態を確保しつつ、雇用の安定を図る方法を探ることが重要である。

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