産学官連携により大学生の就職の選択肢を拡大せよ

2010/12/20 佐々木 雅一
社会政策

就職における一極集中が進む
2010年度大学卒業者の就職内定率は57.6%。文部科学省及び厚生労働省が11月16日に公表した「大学等卒業予定者の就職内定状況調査(10月1日現在)」によると、就職氷河期を下回り、1996年の調査以来最低の結果となった。
一方で、中小企業は人材を十分に確保できていない状況にある。株式会社リクルート・ワークス研究所の「ワークス大卒求人倍率調査(2011年4月21日公表)」によると、5000人以上の企業の求人倍率は0.47倍であるのに対し、300人未満は4.41倍である。企業側から見れば、4社に1社しか学生を採用できない計算となる。
大企業が採用を控えるなか、有望な人材確保のために積極的な採用活動を行う中小企業も少なくない。特に、2007年からの団塊世代の退職に伴い技術継承に課題を抱えている製造業に顕著である。しかし、経済見通しが不明瞭な今日では、大学生は就職先に安定性を求めており、景気に左右されやすいと見られがちな中小企業は敬遠されているようだ。大企業の多くは首都圏に本社を置いており、結果として地方大学の学生も巻き込んだ雇用の一極集中が進んでいる。

なぜ学生は中小企業を選択しないか
ここからは製造業への就職に絞って考えたい。
地方大学にとって、地元企業に学生を就職させるメリットは大きい。近年、大学では、産業界から必要とされる即戦力人材を育成するための実践教育が重視されるとともに、研究活動費の確保が必要とされており、委託研究や共同研究へのニーズが高まっている。工学系の場合、そのきっかけとして、研究室OBの存在が大きいが、一旦、他地域の企業に就職すると研究室との関係は希薄となってしまう。したがって、安定的な研究相手先として地元企業への期待が大きくなる。
また、地元の産業界から必要とされる人材を輩出することにより、地域における大学の評価が高まり、優れた人材が大学に集まりやすくなるといったメリットもある。
では、なぜ学生が中小企業に集まらないのか。
最大の課題は、多くの中小企業は知名度が低く、学生の就職先の選択肢にならないことである。学生に限らず、大学の教職員にも当てはまり、学生に中小企業を勧めることができない。大学は、自ら企業にアプローチするノウハウが少ないため、現状では、学生の意識を中小企業に向けることは難しい。
また、少子化による大学間競争が厳しい今日では、卒業後の就職状況が入学希望者の拡大に大きな影響を与える。それも単なる就職率の高さだけではなく、どの企業に就職したかが重視されており、結果として知名度の高い大企業への就職を学校自体が促している。

中小企業を就職の選択肢とするために産学官が連携すべき
こうした課題を解消するため、三重県では企業と大学、学生を繋ぐ取り組みを県自ら行っている。大学の夏休み期間中に、約25名の学生が5泊6日で約10社を訪問する「ものづくり企業魅力発見バスツアー」である。もともとは、2006年度に中小企業庁が実施した「若者と中小企業とのネットワーク構築事業」の一つとしてスタートしたものを、三重県独自の取り組みへと深化させたものである。ツアーでは、工場見学はもとより中小製造業の経営者の講話、若手社員との交流などを行う。同じようなものとしてインターンシップがあるが、このツアーは、学生が経営者と接し、中小企業の魅力に触れるメリットがある。また、複数の中小企業を訪問するため、いろいろな考え方や強みを持った企業があることを知ることもできる。参加学生は、中小製造業の実力に驚き、企業経営者や社員の熱意に感動し、大変好評である。中には、訪問先の企業に就職した学生も出ている。
この取り組みは、参加した大学生の就職に対する新たな選択肢を提供するとともに、大学と企業の採用を介した連携を生み出している。就職における大学生と企業のミスマッチを解消するには、これまでの価値観を変える必要があるが、こうした産学官連携が一つの方策となるだろう。

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