災害関連死を防ぐ地域包括ケア

2011/07/07 星芝 由美子
地域包括ケア
災害

東日本大震災から4か月、高齢者等の震災関連死に関係者の注目が集まっている。社団法人全国訪問看護事業協会が5月下旬~6月中旬に、被災地域の訪問看護ステーション259か所を対象に行った調査によれば、在宅で訪問看護を利用して療養していた人のうち、避難生活の疲れなどによって死亡する「震災関連死」と訪問看護師が判断したケースが少なくとも125人にのぼるという。(回答事業所は192か所)
また、読売新聞が福島原発から約30キロ圏内で、移動を余儀なくされた特別養護老人ホーム・養護老人ホーム12か所に行った調査によれば、東日本大震災から3か月以内に、入所者826人のうち77人が亡くなったということである。これは、昨年同期の約25人の3倍にのぼり、「各施設では移動や避難生活での疲労、環境変化などが多くの死につながったとみている」とのことである。(2011年7月2日読売新聞)
今なお、避難生活を余儀なくされ、不便な生活、これまでとは異なる生活が続いていることの影響が、いわゆる災害弱者である高齢者の死という形で表面化しており、早急の対応が求められる。

さて、「トリアージ」という言葉を聞いたことがある方は多いかと思う。災害時などにおいて限られた医療資源を効果的に活用するために、傷病者の重症度と緊急度を判断した上で、治療の優先順位を決め、適切なタイミングで医療を提供するための取り組みである。通常、「黒(死亡・救命不能)」、「赤(最優先治療群)」、「黄(優先度中)」、「緑(優先度低)」といった4段階の色分けで、優先順位が決められる。今回の震災の現場でも活用され、全国から被災地に応援にかけつけた医療スタッフや地域の医療資源が有効活用されるとともに、必要な場合には被災地外の高度な医療施設に患者を搬送させる等の対応もなされた。
救急搬送を管轄する消防庁では、救急搬送ニーズの量的増加への対応策の1つとして、平時においてもこのトリアージの概念を活用すべく、現在、検討を進めているところである。(ただし、平時においては一般的には「黒」(救命不能)は用いられず、蘇生の対象としての「青」として、最優先対応者とされる。)
なお、トリアージは1回の判断で終えるのではなく、患者の状態の変化、資源の変化の可能性があるため、繰り返し実施することがポイントとされている。

このトリアージの仕組み・考え方を災害直後、あるいは救急の現場だけでなく、高齢者の生活支援にもいかせないか、と思う。避難所や在宅で不便な生活を送る要介護高齢者においては、ケアが不十分であれば、それはまさしく死に直結することが今回の震災からも明らかになった。医療サービスだけでなく、介護・福祉サービスがすぐに必要な高齢者に対し、優先的にサービス提供されることが求められている。さらにいえば、平時にも高齢者の状態に応じて、重点的・優先的に介護・福祉サービスを投入することを可能とする仕組みの充実・体系化が求められるのではないかと考える。

また、今後高齢化が一層進む中で、高齢者が住み慣れた地域に住み続けることができるよう「地域包括ケア」のサービス体系構築、環境整備が推進されているところである。住み慣れた地域での生活を継続するためには、火災や地震、水害等の災害に対して、高齢者の安全をどのように確保し、安心を担保するか、災害関連死までを見通し、地域包括ケアの体系の中に組み込んでおくことが必要であろう。
今回の震災においては、特別養護老人ホームが地域の要介護高齢者の避難所とされたり、地域の訪問看護ステーションの看護師が在宅の要介護高齢者を支え、さらに言えば生命をつなぎとめる役割を果たす等、地域に整備されている高齢者施設や事業所は災害を乗り越えるための重要な地域資源・拠点となっている。これらの地域資源の充実強化をはかり、安全安心なまちづくりを行うことが今後の課題となるだろう。

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