地域公共交通確保維持改善事業の活用にあたって

2011/12/07 筒井 康史
地域公共交通

生活交通サバイバル戦略への転換

地方公共団体による生活交通サービスの維持に対する国の補助制度が平成23年度に大きく転換したのはご存じのことだと思う。「地域公共交通活性化・再生総合事業」等が廃止され、「地域公共交通確保維持改善事業」に転換した。筆者も複数の地方公共団体において活性化再生総合事業から確保維持改善事業への転換を図りながら、生活交通サービス(バス)の維持向上のお手伝いをしているが、「理想的な生活交通ネットワーク」を形成しようとする際に疑問に思うことが何点か生まれている。本稿では、当該補助事業の活用にあたって留意すべき点を述べてみたい。

都道府県と市町村との役割分担:広域交通ネットワークはだれが担保するのか

確保維持改善事業の陸上交通の事業補助を受けるには、一般的な解釈として、都道府県主催協議会で「地域間幹線系統確保維持計画」を、市町村主催協議会で「地域内フィーダー系統確保維持計画」を定める必要がある。広域交通ネットワークは「地域間幹線系統」路線で骨格ができ、市町村内は「地域内フィーダー系統」路線が分担することになるため、都道府県主催協議会の役割が非常に重要となる。
しかし、これまで都道府県主催協議会では、廃止路線(退出申出)の対応や生活交通路線に対する協調補助等の議論が中心で、広域交通ネットワークのあるべき論についての協議はされてこなかったと思う。
今後は、市町村や交通事業者からの提案をふまえて、都道府県が将来像を描く立場になったと思う。都道府県独自の補助支援を行うだけでなく、都道府県自らが事業主体となった地域間幹線系統路線が生まれてくることを期待したい。

市町村主催協議会運営での留意点(1)=生活交通ネットワーク計画の限界

既存の市町村主催協議会は、「道路運送法」や「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」が根拠法として設置されているケースが多い。バス路線のルート変更や運賃改定等の道路運送法に基づく協議決定や、活性化再生総合事業を活用した地域公共交通総合連携計画による事業化を行ってきた経緯があるためである。
こうした市町村主催協議会では、新しい確保維持改善事業の「生活交通ネットワーク計画」に対する協議決定事項について下記の問題が指摘できる。
例えば、複数市町村にまたがる「地域間幹線系統」路線は、自らの地域においても重要な路線であるため、協議対象として積極的に取り上げ計画に位置づけるべきだと思う。また、補助要件を満たさない「地域内フィーダー系統」路線であっても、ネットワークを構成する路線として計画に位置づけるべきだと思う。市町村主催協議会が協議すべき範囲と生活交通ネットワーク計画での記載事項には乖離がある。
市町村主催協議会では、道路運送法に基づく意志決定を行うために必要な「交通計画」、活性化・再生法に基づく「地域公共交通総合連携計画」、確保維持改善事業の「生活交通ネットワーク計画」等、それぞれの法や計画の守備範囲を正しく認識し、できれば、全体を統合した「総合交通計画」などを定め、当該地域の「理想的な生活交通ネットワーク」を維持形成していくことが重要だと思う。自由な発想による協議会運営が求められている。

市町村主催協議会運営での留意点(2):事業管理PDCAの理想と現実

これまでの活性化再生総合事業も新しい確保維持改善事業でも、事業実施後の「自己評価」が義務づけられている。そのため生活交通ネットワーク計画では、評価指標を設定しPDCAの実施が重要となる。
これまでの活性化再生総合事業では、補助対象者が市町村主催協議会で、補助対象経費として自己評価を行うモニタリング「調査費」が認められていたため、利用者や住民アンケート調査による「満足度」等の指標設定ができていた。「評価指標」の設定も創意工夫がされていたと思う。
しかし、確保維持改善事業では、補助対象者が交通事業者となり、モニタリング「調査費」は経費対象とならないため、「利用者数」「事業収支率」の基本データによる簡易的な自己評価で済ましてしまうケースが増えると思われる。
だれも利用しないサービスを継続して赤字を生み続けるより、住民ニーズを反映した事業改善を行えば、自ずと収支率が改善し、自己評価に係る経費等の捻出も可能になる。協議会での適切な自己評価を行う事務局運営を期待したい。
本稿で指摘している以外にも、隣接市町村との調整方法、交通空白地解消における公平性の担保方法など、現場で抱える問題はまだまだある。こうした問題に対する解決策は、地域特性に応じて異なるため、決して一つではない。今後の協議会における合意形成(協議)が適切に行われるよう事務局の力量に期待したい。

地域公共交通(陸上交通)を対象とした補助事業の転換内容

平成22年度まで 平成23年4月1日以降
補助事業名 地域公共交通活性化・再生総合事業 地域公共交通確保維持改善事業
申請時に必要な計画 地域公共交通総合連携計画 生活交通ネットワーク計画 ・地域間幹線系統確保維持計画・地域内フィーダー系統確保維持計画
計画策定者 法定協議会 (主に市町村主催協議会) 地域間幹線系統=主に都道府県主催協議会フィーダー系統=主に市町村主催協議会 ※複数市町村による広域協議会等のケースあり
補助対象者 法定協議会 (主に市町村主催協議会) 交通事業者
補助対象経費 実証実験運行費、利用促進費、モニタリング等調査費等 補助要件を満たす路線の運行費
備  考 平成22年度までに地方運輸局長等の認定を受けた地域は平成23年度の経過措置あり。 陸上交通を対象とした地域公共交通確保維持事業を前提に整理。調査事業、バリア解消促進等事業等あり。

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