「Xデー」への備えはあるか?~今なにをすべきか~

2012/08/23 美濃地 研一
金融
中堅・中小企業経営

中小企業金融円滑化法が2013年3月まで再延長

金融機関に返済条件の変更要請に応じる努力義務を課した「中小企業金融円滑化法」の施行(2009年12月)から3年近くが経過した。リーマン・ショック後の厳しい経済環境を乗り切るための特別措置ともいえる内容の法律で、中小企業の資金繰りを手助けし、黒字倒産の防止や景気回復時までの雇用維持につなげるための施策である。
特例的なこの法律は、もともとは2011年3月までの時限措置であった。ところが、期限を迎えた2011年に1年間延長されることとなった。さらに、今年になって再び1年間延長された。日本経済は、リーマン・ショック後の景気回復期に東日本大震災に襲われるなど、不運も重なり、厳しい経済環境は続いたままである。この法律が無くなれば、多くの中小企業の資金繰りが破綻する事態を迎えることは容易に想像がつく。

中小企業が多い地方は深刻な影響を受けるおそれ

特に、深刻な影響を受けると考えられるのは、大企業が少なく、中小企業が多い地方である。この法律にしたがえば、財務などに懸念がある取引先であっても、金融機関は正常債権に区分することができたが、来年3月末に法律が失効した瞬間に、これらの債権は、不良債権化するおそれがある。つまり、2013年は、企業の倒産が全国で相次ぐ懸念がある。倒産が急増するような地域では、失業率が急激に上昇するといった深刻な事態を招く可能性がある。

中小企業金融円滑化法の功罪

この法律には、プラスとマイナスの評価が並存している。プラス面は、資金繰りの悪化を防ぎ、中小企業の倒産を防止できたことである。その一方で、マイナスの評価があるのは、本来であれば、倒産を免れない企業がこの法律により延命し、市場から退出しないままで、現在に至り、産業構造の転換を遅らせたためである。

地方自治体や首長に「備え」はあるか

来年春までに景気回復の展望が描けない現状からすると、不良債権は増えることはあっても、減ることは少ないと推測せざるを得ない。果たして、地方自治体や首長は、これに対する「備え」を持っているのだろうか。残されたあと半年のうちに、できることは限られているかもしれない。しかし、一定以上の確率で現実のものとなるであろう、中小企業倒産件数の増加や失業者の増加を見越して、今の時点で、打つ手はないのであろうか。

産業構造転換に結びつけることができるかどうか。地方自治体や首長の覚悟が問われる

誤解を恐れずにいえば、地方自治体や首長は、中小企業の倒産や廃業を恐れず、むしろ、これを産業構造転換の好機ととらえるべきではないか。「自社に将来性はない」と考える経営者に対しては、企業を清算するために専門家を派遣する費用を負担するなどして、その企業が保有している「ヒト・モノ・カネ・情報」を積極的に市場に戻すべきであろう。一朝一夕に効果が出ることを期待するのは難しいが、失業者となってしまう労働者に対しては、慢性的な人手不足に苦しむ業界への転身を図るための職業訓練機会を提供し、さらに、失業者を新たに雇用する事業所には新規雇用者数に応じた助成を行うなど、パッケージ化した政策を推進してはどうだろうか。
私自身も一労働者であり、勤務先が倒産・廃業という憂き目にあえば、失業者となり、苦難を味わうことになる。そのことを思えば、軽々にものを言える立場ではないが、シンクタンクの一員としてできることは、地域の企業の実態を知る地方自治体や首長とともに、このような時期にこそ求められる大胆な産業政策の立案に取り組むことである。そう遠くはない時期に訪れると思われる「Xデーが杞憂に終わる」ことを夢見るだけではなく、厳しい現実に対応できるアイデアを温め、地域産業の苦境を共に乗り越えたい。

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