ふるさと納税への返礼品の出品は、知財経営の入り口

2023/09/28 美濃地 研一
税制
知的財産
中小企業支援

当社コラム「中小企業における収益向上と知的財産経営 強みとなる経営資源の戦略的な獲得と活用」[ 1 ](2023年9月5日、肥塚直人)において、最近の中小企業における知的財産経営のトピックについて、述べているが、このコラムでは、ふるさと納税の返礼品という観点から知的財産にかかわるトピックを紹介したい。本コラムは、知的財産コンサルティング室メンバーによる連載コラムの一環である。

1.「ふるさと納税」における返礼品「市場」は約2,700億円

総務省から発表された、2022(令和4)年度の「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)」[ 2 ](2023年8月1日、総務省自治税務局市町村税課)によると、2022(令和4)年度のふるさと納税の受入額は、約9,654億円(対前年度比:約1.2倍)、受入件数は約5,184万件(同:約1.2倍)へと右肩上がりで拡大している。

図 ふるさと納税の受入額及び受入件数の推移(全国計)
ふるさと納税の受入額及び受入件数の推移(全国計)
(出典)「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)」(2023年8月1日、総務省自治税務局市町村税課)

併せて、この調査では、「ふるさと納税の募集に要した費用(全団体合計額)」が示されており、「返礼品の調達に係る費用」は、2,687億円となっている。ふるさと納税によって、約2,700億円の地域産品販売市場が生まれた、と言い換えることができるかもしれない。

ここで、返礼品調達費用(2,687億円)を受入件数(5,184万件)で割ると、1返礼品あたりの平均的な単価は5千円程度になる。もちろん、返礼品を伴わない、ふるさと納税という形態もあるため、ここで示した単価は計算上のものである。

一方、ふるさと納税サイトで人気ランキング上位に来る返礼品をみると、多くは生鮮食品や加工食品などである。消費者が日常的にスーパーなどで購入する生鮮食品、加工食品に比べると、高価なものであり、返礼品に対する消費者の期待は高いと考えられる。また、返礼品が、贈答用として活用されることもあり、商品力だけではなく、地域そのものの良好なイメージを訴求することも重要であることがわかる。

2.各市町村が募集する「ふるさと納税返礼品協力事業者」が満たすべき要件

返礼品を提供している事業者は既知のことであるが、今後、自社製品・サービス等を地元市町村の返礼品に採用してもらいたい、と考えている事業者は、各市町村が定める「ふるさと納税返礼品協力事業者」の募集要項などを参照し、自社製品・サービス等が自治体に登録される必要がある。もちろん、公的な事業であるため、募集要項等に記載されている要件を満たさなければならない。

多くの市町村の募集要項を見ると、返礼品の要件として、「関係法令を遵守しているものであること」という記載がある。関係法令といっても、現実には数多くの法令があるが、「食品衛生法、食品表示法、農林物資の規格化等に関する法律、商標法、特許法、著作権法、不当景品類及び不当表示防止法、不正競争防止法・・・」といった具体例を挙げて、説明しているケースもあれば、その製品・サービスを提供している事業者そのものが、「法令等に沿った操業、生産、製造、販売等を行っている」ことを要件としている場合もある。

こうした文面を読む限りでは、法令等に通じた間接部門を有しない小規模事業者では、法令の遵守や知的財産に関連する法令の遵守を求められても、適合しているのかどうか不明という場合もありそうだ。

3.「ふるさと納税返礼品」に関する知的財産関連法令については、どこに相談すればよい?

例えば、事業者側が、自社製品を返礼品としてPRするために、写真や文章を市町村側に提供することが一般的だと思うが、市町村側の募集要項をみると、「事業者の責任において、当該権利の利用に関して必要な承諾を得ることとする」といった記載がある。

とはいえ、webを活用したネット販売の経験が豊富な事業者であれば対応も容易であると思われるが、著作権に関する知識を持っておらず、対応に苦慮する事業者もあるだろう。また、製品の名称やロゴなど、商標にかかわる権利関係も確認したことがない事業者も多いのではないか。

市町村の募集要項を読む限り、知的財産に係る法令の遵守を求めているものの、それらに対して、どのように対応していけばよいのか、どこに相談すればよいのか、といったアドバイスをしているケースは、私がチェックした範囲内では皆無であった。大規模な市町村を除けば、基礎自治体である市町村が事業者の知的財産の運用にかかわるような場面はほとんど無く、ふるさと納税返礼品の登録を担当する部署に知的財産に詳しいスタッフが配属されるケースもないのが実情であろう。

4.「知財総合支援窓口」[ 3 ]を活用し、知財経営に踏み出そう

特許庁が所管する独立行政法人 工業所有権情報・研修館(略称:INPIT、読み方はインピット)は、全国47都道府県に「知財総合支援窓口」を設置し、主に中小企業を対象として、知的財産にかかわる幅広い相談に対応している。

おそらく、地元の中小企業にしてみれば、昔から使っている屋号や商品名が他社の商標を侵害しているなどということは、思いもよらないことかもしれないが、「ふるさと納税」サイトを通じて全国展開される場合には、商標侵害のように他社の権利を侵すことのないように留意する必要がある。また、商標以外にも、商品紹介の画像や文章表現など、著作権に関しても留意すべき点がある。

事業者側にこうした不安があれば、知財総合支援窓口に相談することで、問題解決の糸口がつかめるはずである。また、同窓口に相談することで、多くの事業者にとって、これまで身近ではなかった知的財産について、改めて認識を深めることができる。

知的財産は、他社の権利を侵害しないといった「守り」と同時に、自社の強みを知的財産によって「攻め」に繋げることもできる。知財総合支援窓口では、「守り」とともに「攻め」に対応した、企業へのアドバイスも行っている。

「ふるさと納税」をきっかけに、多くの事業者が知財経営に踏み出すことを切に願っている。


1 ] 「中小企業における収益向上と知的財産経営 強みとなる経営資源の戦略的な獲得と活用」 (2023年9月5日、肥塚直人) 
2 ] 「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)」(2023年8月1日、総務省自治税務局市町村税課) 
3 INPIT知財総合支援窓口(知財ポータル) 

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