令和4年度調査事業から見えてきた療育手帳制度の現状と課題

2024/01/12 西尾 秀美、清水 孝浩、古賀 祥子
障がい
福祉
障害福祉サービス

療育手帳[ 1 ]の在り方は、国の審議会[ 2 ]において論点の1つとして取り上げられており、長年にわたり認識されてきた課題である。当社では、厚生労働省令和4年度障害者総合福祉推進事業の一環として、療育手帳の判定・交付の状況と、療育手帳を軸とした知的障害児者への支援状況等に関する調査を行った。本稿では、当該調査を通じて明らかとなった療育手帳の現状と課題について概観する。

1.療育手帳とは

障害のある方のための制度・施策の1つとして、障害者手帳がある。障害種ごとに3種類の手帳があり、それぞれ根拠とする法律や通知に基づき運用されている。

図表 1 障害者手帳の概要
障害者手帳の概要
(出所)厚生労働省「障害者手帳」(2023年4月24日閲覧); 「精神障害者保健福祉手帳制度実施要領について(平成7年厚生省保健医療局長通知)」;「療育手帳制度について(昭和48年厚生事務次官通知)」を基に当社作成

自宅等でヘルパーを利用したり、施設等で日中活動を行ったりする等、障害者総合支援法における障害福祉サービスや児童福祉法における障害児通所支援等のサービスについては、基本的に障害者手帳の所持は要件となっていない[ 3 ]。言い換えると、手帳の所持によらず、基本的な障害福祉サービスを必要に応じて利用することができる制度・体制が整えられている。しかしながら、特に知的障害のある方を対象とした療育手帳の所持者数は年々増加傾向にあり、現在においても療育手帳へのニーズがあると考えられる[ 4 ]。

図表 2 療育手帳の所持者数(交付台帳登載数)
療育手帳の所持者数(交付台帳登載数)
(出所)厚生労働省「令和3年度福祉行政報告例」を基に当社作成

法律を根拠とする身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳とは異なり、療育手帳は昭和48年厚生事務次官通知を根拠とし、対象の設定から知的障害の判定、療育手帳の交付等、各自治体の裁量が大きい制度となっている。約50年前、現在ほどのサービス基盤がなかった制度開始当初を考慮すると、対象者や自治体の状況に応じて柔軟に対応できる療育手帳制度が果たしてきた役割は大きいと考えられる一方で、その柔軟さ故に各自治体での運用が異なり、転居等を機に既に交付された療育手帳が利用できない等の課題も指摘されている。

2.令和4年度調査から見えてきた療育手帳の現状と課題

本節では、当社が令和4年度に実施した調査から見えてきた療育手帳の現状と課題について、以下の3点から紹介する。

(1)療育手帳の対象

療育手帳は知的障害児者への支援のための制度であるが、国の通知には障害自体の明確な定義の記載はなく、各地域で定義し、全国の児童相談所と知的障害者更生相談所(以降、両機関を指す場合に「判定機関」とする)が対象かどうかを判定している。国際的には、知能指数(IQ)と、行動上の課題(いわゆる「適応行動」)、そして発症時期の3点から知的障害を判断することがスタンダードとなっている。今回のアンケート調査から、以下の実態が明らかとなり、知的障害の定義の大枠については概ね全国的に共通することが示唆された。

  • IQ:療育手帳を交付する都道府県市(以下、「交付主体」とする)の86.4%(51カ所)でIQの上限値を設定していた(平均値75.5、中央値75.0)。うちIQ80以上を設定している交付主体が7カ所あった。
  • 適応行動:判定機関における適応行動のアセスメントの実施状況は、「全件で実施」が63.9%、「一部で実施」が30.8%、「実施していない」が5.3%となっていた。
  • 発症時期:「「概ね18歳まで」で設定」が交付主体の78.0%(46カ所)を占めた。

他方で、IQ70~75以上の者に対して療育手帳を交付するケースや、IQ70~75以上の者で発達障害を勘案して療育手帳を交付するケースについて、いずれも3割前後の判定機関から「ある」と回答があり、知的境界域の方等への支援のために、療育手帳の対象に含めている可能性も示唆された。また、既存調査でも指摘されているが、本アンケート調査においても、判定に用いるツールや、障害の程度に関する区分にばらつきがあることもあらためて確認された。

これまでの情勢や地域のニーズ等に応じて柔軟に運用されてきたことで、対象等の違いが生じ、特に転居時において課題が指摘されている。例えば、厚生労働省の通知[ 5 ]では、新住所地の都道府県等において、記載内容の訂正により既に交付されている手帳を引き続き使用することを原則とし、そのまま使用することが困難な場合に新規に発行することとしているが、アンケート調査(調査対象:交付主体)では、「原則、判定を行わない(継続利用)」は13.6%、「原則、判定を行う」が45.8%となっており、判定機関に対してその場合の判定方法を尋ねたところ、「書類判定」が主と考えられた。また、交付主体や判定機関からは、「他県ではIQの数値が境界域や平均域であるが発達障害のため療育手帳を発行していた児童が転入してきた場合、県の基準では発行できない」、「程度等の区分が異なったり、発達障害や身体障害の扱いが異なったりしており、統一基準のない中、対応しきれない」といった自由回答も見られた。以上から、通知では転居した場合も療育手帳の継続利用が推奨されているものの、実態としては、対象等の違いにより継続利用が容易でなく、書類判定を主としながらも新規交付せざるを得ない状況が想定される。

(2)療育手帳の目的

国の通知[ 6 ]によると、療育手帳の目的は、「知的障害児(者)に対して一貫した指導・相談を行うとともに、これらの者に対する各種の援助措置を受けやすくするため、知的障害児(者)に手帳を交付し、もって知的障害児(者)の福祉の増進に資すること」としている。アンケート調査から、療育手帳の申請のきっかけとして「障害福祉サービス利用」や「手当や年金の申請」への回答が多く見られたことからも、各種援助措置を受けやすくし、福祉の増進に貢献している状況がうかがえた。

他方で、アンケート調査から、療育手帳の判定時に行われる知能検査や適応行動のアセスメント結果について、「本人・家族」もしくは「転居後の交付主体・判定機関」には検査結果を提供している判定機関が多いものの、必ずしも関係機関と共有されていないことが明らかとなった。検査結果の提供先について、「本人・家族」「転居後の交付主体・判定機関」であっても、「希望があれば提供している」の割合が多くを占めていること、さらに、障害児者のサービス等を計画・支援を行う相談支援事業所まで検査結果が届いていないこと等を踏まえると、手帳取得後の支援を見据えて、検査結果の共有を前提とした制度に至っていない状況が推察された。本調査研究で設置した検討委員会からは、特に適応行動のアセスメント結果は、今後の支援を検討する上でも有用であることが指摘された一方、アンケート調査から、標準化された検査以外の活用が見られており、支援方針の検討に活用できる検査が必ずしも全国的に実施されているわけではないことが確認されている。

国の通知では、制度の目的として「知的障害児(者)に対して一貫した指導・相談を行う」ことが示されているが、現状は、専門的な知見を持つ職員による検査結果が支援に活かしきれておらず、さらに支援に活かせる検査が全国共通で行われていないことが推察される。今後の制度の拡充に向けては、療育手帳の目的を再確認し、目的に即した運用の検討が進められることが望ましい。

図表 3 療育手帳の判定プロセスにおける検査結果に関する情報提供の状況
(児童相談所・知的障害者更生相談所調査, n=227)
療育手帳の判定プロセスにおける検査結果に関する情報提供の状況
(出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「療育手帳その他関連諸施策の実態等に関する調査研究報告書(厚生労働省令和4年度障害者総合福祉推進事業)」図表2-447を基に当社作成
図表 4 療育手帳の判定プロセスにおける検査結果の情報取得の状況、及び検査結果情報の必要性
(相談支援事業所調査)
療育手帳の判定プロセスにおける検査結果の情報取得の状況、及び検査結果情報の必要性
(出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「療育手帳その他関連諸施策の実態等に関する調査研究報告書(厚生労働省令和4年度障害者総合福祉推進事業)」図表2-428, 図表2-431を基に当社作成

(3)判定・交付の状況

療育手帳の判定を受けるパターンはいくつか考えられるが、代表的なケースは次の2つがある:①新たに手帳を取得するために判定を受けるケース、②療育手帳は取得済みで、再度判定を受けるケース。今回のアンケート調査で、判定機関に対して令和3年度の判定件数とその内訳を尋ねたところ、全判定件数(約14万件)のうち再判定による交付が7割超となっていた(回答数n=188)。平均値でみると、回答した判定機関1カ所あたり年間で約753.7件、1カ月で約62.8件の判定を行っている計算になる。

図表 5 療育手帳の全判定件数に占める割合(令和3年度)(児童相談所・知的障害者更生相談所調査)
療育手帳の全判定件数に占める割合(令和3年度)
(出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「療育手帳その他関連諸施策の実態等に関する調査研究報告書(厚生労働省令和4年度障害者総合福祉推進事業)」図表2-97を基に当社作成。
(注釈)N数は回答のあった判定機関における判定件数の合計。

判定においては、心理司等の専門知識を有する職員が判定ツールを用いてIQなどを確認し、地域によっては判定会議を行う、医学的所見を確認する等して、療育手帳の対象かどうかを総合的に判断している。本人に対する検査は基本的に対面で行われており、検査を行うための準備(申請の受理、本人・家族等との日程調整等)等を含めると、1ケースの判定に対してそれなりの労力が割かれていることが想像できる。

さらに、判定する側の負担感もさることながら、本人・家族や支援者の負担も聞かれるところである。前述の転居時に加え、例えば、地域によっては、重度で状態像の変化が想定されない場合でも定期的に再判定しているケースがあり、その対応への負担感についてアンケート調査や検討委員会でも指摘がなされていた。障害の程度が変化すると考えられる場合においては定期的な程度の確認は重要であるが、状態の変化が想定されない場合には再判定を不要とするといったように、何より本人・家族の負担を軽減するための制度の運用の在り方についても検討の余地があるだろう。

3.おわりに

本稿では、令和4年度に行った調査を基に、療育手帳制度に関する現状と課題について、3点から((1)療育手帳の対象、(2)療育手帳の目的、(3)療育手帳の判定・交付の状況)概観した。知的障害児者に対して支援を行うため、柔軟に運用されてきた療育手帳制度であるが、その柔軟さ故に課題も生じている。今後に向けては、一定程度の運用の統一化が望ましいと考えられるが、自治体に大きな裁量がある中で、どのように制度の対象や目的、運用を整理していくのか、丁寧かつ慎重な議論が求められる。さらに、議論の結果、制度の運用等を改善する場合には、本人・家族やその他の関係機関に影響が出ることが想定されるため、生じる可能性のある不利益を最小に抑えつつ、同時に、不利益がある場合への対応も検討することが必要と考える。

【令和4年度障害者総合福祉推進事業の採択案件成果報告書】
「厚生労働省 令和4年度 障害者総合福祉推進事業費補助金」の採択案件の成果報告書の公表について | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング (murc.jp)


1 ] 自治体の裁量により名称が異なる場合があるが、本コラムでは知的障害児者向けの障害者手帳を総称して「療育手帳」とする。
2 ] 「障害者総合支援法改正法施行後3年の見直しについて~社会保障審議会障害者部会報告書~」令和4年6月13日
3 ] 居宅介護や生活介護等といった介護給付や訓練等給付、児童発達支援や放課後等デイサービスといった障害児通所支援は、自治体による支給決定後、サービス等利用計画(障害児通所支援の場合は障害児支援利用計画)を作成し、利用したいサービス事業所と契約の上、サービスが利用できる。なお、日常生活用具給付等事業や日中一時支援等が含まれる地域生活支援事業は、各自治体に裁量があるため、利用に際し手帳の所持が要件となっている場合がある。
4 ] 交付台帳登載数には未返還の死亡者を含む可能性はあるが、厚生労働省HP「障害者手帳」に基づき交付台帳登載数を所持者数と表記している。
5 ] 「転居に伴う療育手帳の取扱いの留意事項について(平成5年6月22日厚生省児童家庭局障害福祉課長通知)」
6 ] 「療育手帳制度について(昭和48年9月27日厚生事務次官通知)」

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