金融危機10年と欧州経済~財政政策の統合深化と合わせて問われる今後の成長モデルの在り方~

2018/09/13 土田 陽介
調査レポート
海外マクロ経済

○EUの執行機関である欧州委員会は、スペインなど財政危機に陥った国々に対して、金融支援の条件として財政緊縮と輸出振興を義務付けた。財政緊縮と輸出振興を柱とする経済成長モデルは、一貫してドイツの志向してきた経済成長モデルであり、ユーロ圏経済は危機を経て「ドイツ化」が進んだと言えよう。

○他方で経済成長の牽引役を外需にスイッチしたということは、成長の余地がある内需を抑え込んでいるということでもある。経済成長の持続可能性を高める観点から言えば、今後も外需依存度の高い経済成長モデルを維持するかどうかは大いに問われるところである。

○ユーロ危機が生じた最大の理由は、通貨政策と金融政策が統合されているにもかかわらず財政政策の統合が遅れていることにあった。次の経済危機を予防するためにも、財政政策の統合深化は避けて通れない道である。その進捗こそが、今後のEU経済の運営戦略上の最優先課題である。

○また欧州の経済発展の本来の牽引役は内需にある。少なくとも厳しい財政緊縮を通じた輸出振興は、反EU/ユーロの動きが各国で高まる中で、政治的な持続可能性を欠いている。ユーロ危機以前までとはいかなくても、EUは経済運営戦略の方向を内需喚起に転じる必要がある。

○そのためには、ユーロ危機以降一貫して行われてきた過剰な財政緊縮を緩和する必要がある。特にスペインなど旺盛な内需を抱える南欧諸国に対しては、一定の財政支出を容認すべきだろう。他方で南欧諸国もまた、持続可能な内需主導の成長モデルを確立するために、そしてドイツなどの諸国からの批判を免れるためにも、硬直的な労働市場の構造改革を推し進めるとともに、銀行の不良債権問題など積み残された課題の克服が望まれる。

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