消費税率引き上げが個人消費に与える影響 ~前回、前々回の増税時の振り返りと今回の見通し~

2019/03/18 藤田 隼平
調査レポート
海外マクロ経済

○消費税率10%への引き上げはこれまで2度延期されてきたが、現時点で政府はリーマン・ショック級の出来事が起きない限り増税の再々延期は行わず、予定どおり2019年10月に消費税率を引き上げる方針を表明している。

○過去、消費税率が引き上げられた1997年と2014年の個人消費の動きを見ると、いずれにおいても、消費税率引き上げ前後のタイミングで大きな変動が生じている。こうした消費の大きな変動は、①駆け込み需要と反動減(代替効果)、②消費税率の引き上げにより物価が上昇することに伴う実質所得の減少による効果(所得効果)の2つの要因によって説明できる。

○駆け込み需要を年度最終四半期と当該年度の平均値との乖離(いわゆる年度の「ゲタ」)と定義すると、1997年の増税時は1.3兆円(年率)、2014年は3.3兆円(年率)程度の駆け込み需要が生じたとみられる。また、家計の実質可処分所得の減少による消費の下押し額は、1997年の増税時は▲3.5兆円(年率)、2014年は▲5.4兆円(年率)程度の規模に上ったと考えられる。

○今回、2019年10月の消費税率引き上げに際し、駆け込み需要は過去2回の増税時の平均的な規模である2.6兆円(年率)程度と想定される。また、増税後1年間における家計の実質可処分所得の減少による消費の下押し額は▲1.3兆円(年率)程度と、食料品等への軽減税率の導入や各種給付策が準備されていることもあり、前回、前々回と比べると小さな規模にとどまると考えられる。

○今回の消費税率引き上げ前後における個人消費の見通しについて、一定の仮定を置くことでベースラインとなる動きを機械的に試算すると、2019年度の実質個人消費は前年比+0.5%程度の増加が見込まれる。翌2020年度は、経済対策の効果が徐々に剥落することもあり、前年比+0.3%程度の増加と緩やかな持ち直しにとどまると見込まれる。

○総じて見れば、個人消費の腰折れは回避できるとみられるが、増税前後の消費の動きは、増税時の雇用・所得環境や株式市場の動向などファンダメンタルな要素に左右される部分もあり、不確実性が大きい。人口減少の本格化など構造的な要因もあり、消費税率引き上げ後の個人消費の持ち直しが想定より下振れるリスクにも注意が必要である。

 


※(9月10日訂正)レポート中に以下の通り誤りがありました。訂正してお詫び申し上げます。
■家計の実質可処分所得の減少による消費の下押し額(増税後1年間)
正)▲1.3兆円
誤)▲1.6兆円
■消費税率引き上げ前後における個人消費の見通し(2020年度)
正)前年比+0.3%程度の増加
誤)前年比+0.1%程度の増加

訂正箇所一覧は正誤表をご確認ください。

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