ビジネスモデル変革を迫る金融機関への巨額制裁金

2019/05/31 廉 了
調査レポート
金融

○リーマンショック以降、累計3,300億ドル(約36兆円)もの巨額の制裁金が金融機関に課された。制裁事由はさまざまで制裁金の事由の内訳をみると、米国と欧州で異なる。

○米国では、住宅ローン証券化商品(RMBS)関連が多い。これは、証券化のために売却した住宅ローンに関する誤った情報の提供やリスク説明不十分とされたもので、GSE(ファニーメイ、フレディマック等)への売却事案も多数に及ぶ。住宅ローン延滞発生に伴う差し押さえ手続きに関しては、杜撰で粗雑な対応を行ったことによるものである。欧州は、特に英国の個人・中小企業業務において消費者の利益を疎かにした事例が続発したことによる制裁金が多い。近年、オーストラリアの銀行でも、不正融資や手数料の不正徴収が問題となり、スキャンダル化している。

○米欧豪の事例は、これまで、欧米銀の高収益性を支える金城湯池とも言える個人・中小企業業務で発生し業務の根幹に関わる事件であり、欧米銀を支えてきた同業務の高収益の持続性に不透明感が出ており、欧米銀のビジネスモデルの変革をも促す可能性も秘めている。

○近年マネー・ローンダリング関連の制裁金も増えており、今後急増する可能性がある。米国のマネー・ローンダリング関連制裁は、OFAC(Office of Foreign Assets Control、財務省外国資産管理室)規制に関するものが多く、本規制により、米国の法人・個人(外国企業の米現地法人や支店を含む)は、制裁対象国(イラン、スーダン等)との取引が制限されていたが、制裁金を課される事例が多く発生した。欧州では、脱税幇助関連の制裁が多かったが、近年北欧銀行にも拡がりマネロン関与疑惑が浮上している。

○米国においては、議会からの大手行への厳しい姿勢がさらに増している。米下院では民主党が多数党となり、新しい金融サービス委員長は、かねてより大手金融機関に対しては批判的である。米国議会の大手金融機関への厳しい追及が続くと思われる。

○最近特に、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与防止対策に対する国際社会の要請が着実に高まっており、今後制裁金のみならず金融機関の対応負担が増す可能性が高い。

○2019年には、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与防止対策の国際協調を進めるために設立された政府間会合であるFATF(Financial Action Task Force、金融活動作業部会)の第4次相互審査がある。日本は、2008年の第3次相互審査では、厳しい評価を受け、犯罪収益移転防止法の改正等で対応してきたが、FATFの姿勢はより厳しくなっている。既に第4次相互審査を受けた国を見ると、実質不合格が相次いでいる。日本についても厳しい評価を受けることが懸念されている。

○そのため、これまで日本では口座開設後本人確認をするケースはほとんどなかったが、欧米金融機関と同様、今後は継続的に本人確認を求めるなど、金融機関にとっては大きな負担となる対応をすることとなる。ただ、FATFの審査対象は金融機関だけではなく、金融機関以外の幅広い業者も含まれていることから、金融機関を超えた国家的な課題と言える。マネー・ローンダリング及びテロ資金供与防止対策の重要性はより高まろう。・・・(続きは全文紹介をご覧ください。)

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