コロナ・ショックで暗転した新興国経済の今後は? ~東アジアの新興国が先行して回復、その他の地域は周回遅れに~

2020/07/07 堀江 正人
調査レポート
海外マクロ経済

○新興国経済は、2013年頃から、米国の金融緩和終焉に誘発された新興国通貨下落を契機に、鈍化傾向となっていた。その後も、新興国経済は、原油価格下落や米中貿易摩擦激化による輸出停滞などの影響で鈍化を続けてきた。そこへ追い討ちをかけたのが、今般のコロナ・ショックであった。

○コロナ・ショックで、新興国の財政状態は大幅悪化が避けられない。これまで、財政収支が比較的健全だったアジアも、中国がコロナ・ショック対策として巨額の財政出動を行うことなどから、2020年の財政赤字が大幅に拡大する見通しである。

○コロナ・ショックで世界的なデフレ傾向が予見される中、イランやナイジェリアなどの新興国では、輸出減少による通貨下落などの要因からインフレ圧力が高まり、苦境に陥ることが予想される。インフレ率の高止まりで、個人消費が押し下げられ、また、中銀による利下げも難しくなり、景気回復が遅れる。

○新興国経済に大きな影響を与える要因として、コロナ・ショックによるコモディティ価格の動きが注目される。原油価格はコロナ・ショック発生後に急落しており、原油輸出への依存度が高い新興国の経済は大きな打撃を受ける。一方、食料価格は、下落しておらず上昇しそうな気配すら見える。これは、原油を輸出し食料を輸入している新興国の経常収支を悪化させる懸念がある。

○四大新興国BRICsの中では、コロナウィルス感染の第一波が収束した中国が、いちはやく経済を回復軌道に乗せようとしている。生産や売り上げに関連する経済指標は、2020年4月以降、好転しつつあり、経済成長率は、2020年1~3月期に底を打ち、2020年は通年ベースでプラス成長となる見込みである。

○インドは、2020年3月末にコロナウィルス感染拡大を受けて全土でロックダウンを実施、初期段階での感染拡大を抑え込んだ。しかし、5月のロックダウン解除後に感染が拡大する傾向にあり、2020年4~6月期以降、景気がさらに悪化するのは避けられない情勢である。

○ロシアは、2020年3月末にコロナウィルス感染者数が急増する兆しが見えたため、約40日間の「非労働日」を設けて感染拡大防止を図ったが、その影響で2020年4~6月期の経済成長率が大幅に悪化しそうである。感染拡大の動きは収まらず、2020年7~9月期以降も景気回復は難しそうな情勢である。

○ブラジルでは、2020年3月末に感染拡大が始まったが、景気拡大を重視するボルソナロ大統領が防疫措置に否定的だったため、感染者数が爆発的に増加し歯止めがかからなくなっている。コロナウィルス感染拡大によって需要は大きく落ち込んだままであり、景気の悪化が続きそうである。

○コロナウィルス感染防止対策としての外出制限や営業制限によって大きな影響を受けるのが、新興国のインフォーマルセクター(露天商や日雇い労働者)の労働者である。インフォーマルセクター労働者比率の高い南アジアやサブサハラアフリカでは、コロナ・ショックが長引くほど経済的打撃が深刻化する。

○世界の新興国の中でコロナウィルスの感染被害が比較的少ないのは東アジア地域である。東南アジアのタイやベトナムなどが感染被害を最小限に抑え込み、また、大規模感染の発生した中国も、その後、感染を収束させた。コロナ・ショック後の新興国の景気回復は、東アジア地域が先行しそうだ。その他の地域の新興国では、感染拡大ピークアウトの見通しが立っておらず、景気回復は遅れる見込みである。

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