今月のグラフ(2019年6月)投資立国の課題

2019/06/06 中塚 伸幸
今月のグラフ

2018年度のわが国の経常収支は19兆4,000億円の黒字であった。このうち貿易黒字は7,000億円にとどまる一方、海外における投資からの収益である第一次所得収支の黒字は21兆円にのぼり、これが多額の経常黒字の主因となっている(図表1)。平成の初め頃は経常収支黒字の大半は貿易黒字によるもので、わが国はまさに「貿易立国」というべき姿であったが、その後、対外経済活動の構造は大きく変化し、現状は「投資立国」と位置づけられるだろう。第一次所得収支には主に直接投資収益と証券投資収益の二つがあるが、近年は直接投資収益のウエイトが高まっており、わが国企業が海外企業の買収や現地での生産活動を拡大させてきた結果といえる。

経済の成熟度に応じて国際収支には発展段階があるとの考え方があり、これに従えば現在のわが国は、国内生産活動でも競争力を維持しつつ、過去からの蓄積である対外資産から多くの対価を得る、「成熟した債権国」ということになろう。ただ、この先、国力が徐々に先細って過去の蓄積に頼りきる「債権取り崩し国」になってゆくことは回避したい。すなわち、成長機会を求めて経済活動を海外にシフトさせることと、国内の競争力を維持することとの両立を目指すべきであろう。

図表2の実線は、わが国製造業の海外生産比率の推移を示しているが、2000年代前半には10数%であった比率が直近では25%程度に上昇している。海外の成長を取り込むという意味で、現地生産・現地販売を推進し、その結果として海外生産が緩やかに拡大することは望ましいことといえよう。

一方で、それだけではなく、雇用を守る目的とともに、技術面での優位性を維持する目的からも、一定規模の国内生産を維持することが求められる。積極的に海外生産を進めてきたわが国自動車メーカーが、国内生産台数の維持にも強く拘わるのは当然であろう。図表2の点線は製造業の海外設備投資比率の推移を示しているが、こちらはリーマショック後に上昇したのちここ数年低下傾向にある。これは、海外での投資も相応に行いつつ、国内での設備投資が回復したことによるもので、好ましい方向性といえよう。投資立国のメリットを長く享受し続けるためにも、国内での設備投資と、それに支えられた生産活動継続による競争力の維持・向上が欠かせない。・・・(続きは全文紹介をご覧ください。)

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