今月のグラフ(2019年12月)円安は手放しで歓迎ではない

2019/12/05 中塚 伸幸
今月のグラフ
国内マクロ経済

為替が円安に動けば株式市場はこれを好感し、株高になる傾向がある。ただ、あたりまえの話ではあるが、円安は日本経済全体にとって良いことばかりではない。
わが国は海外との貿易に多くを依存しており、2018年度は輸出が80.7兆円、輸入が82.3兆円と、いずれも80兆円を上回る。輸出品全体の円建て価格と輸入品全体の円建て価格を比較した際に、円安や原油高によって輸入価格が相対的に上昇した場合は、いわば仕入れ値が売値より上がるわけで、わが国には不利になる。すなわち、交易条件が悪化するということであり、所得の海外流出を意味する。

こうした交易条件の変化に伴う所得変動が国民経済計算における「交易利得」で、基準年(2011年)をゼロとして各期の変動が示される。図表1は交易利得と円レート、原油価格の推移を示しているが、交易利得はリーマンショック後の2009年から2014年にかけて減少が続いた。つまり、所得の海外流出が続いたわけである。これは、原油価格が大幅に上昇し高止まりしたこと、及び2013年以降に円安が進んだことによって、交易条件が悪化したためである。一方、2014年以降は原油価格の急落で交易利得は再び増加に転じ、2016年からの円高のもとでさらに増加している。

このように、わが国の交易利得は原油価格の動向に左右される面が大きいが、2013~2014年頃にみられたように円安も交易利得の減少をもたらす。ここ2、3年は為替の変動幅が小さく、18年後半からの交易利得増加は原油価格の下落が主因であるが、かりに今後円安が進めば交易利得を減少させる要因になる。

輸出と輸入がほぼ同額であるわが国が、円安を過大に評価しがちであるのは、円高になった際にはその分だけ輸出品の契約通貨建て価格を引き上げることが難しい(その結果、輸出売上が減少する)からだろう。図表2に示すように、2009年、2016年など、円高が進んだ際には、円建て輸出物価が下がり、契約通貨建て輸出価格の変動は比較的小さい。輸出取引は依然米ドル建てが半分であるため、やむをえない面もあろうが、高付加価値化をさらに進めて、円高時でも現地価格に転嫁できるよう努めていくことが望ましい。そうすれば、円高時には円建て輸入価格の下落によって交易利得が増加するメリットがあることも、より適正に評価されるようになるのではないか。・・・(続きは全文紹介をご覧ください。)

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