今月のグラフ(2021年8月) 中国企業に苦境をもたらす交易条件の悪化

2021/08/05 丸山 健太
今月のグラフ
海外マクロ経済

中国経済は、徹底した行動制限による感染抑制と、ワクチン接種の進展、政府による景気刺激策が功を奏し、コロナ禍から急速に回復し、堅調に推移している。感染再拡大への警戒感から、外食や宿泊といった接触型サービス業こそ低迷が続いているものの、製造業を中心に企業の経済活動はコロナ前の活況を取り戻している。

しかし、ここにきて企業の収益環境の悪化が懸念されるようになった。企業の収益環境を見る指標として、交易条件(出荷価格÷購入価格)がある。販売などの数量が一定でも、交易条件が改善する(=出荷価格上昇、購入価格下落)と、売上高の増加、あるいは仕入れコストの減少を通じて、企業利益は増加する。逆に、交易条件が悪化する(=出荷価格下落、購入価格上昇)と、売上高の減少、あるいは仕入れコストの増加により、企業利益は減少する。

中国の交易条件は、昨年5月以降悪化が続いている(図表1)。交易条件算出の基となる出荷価格と購入価格を見ると、出荷価格は上昇しているものの、それを上回るペースで購入価格が急上昇していることが分かる。購入価格上昇の主因は、国際商品市況の高騰である。2021年6月の実績を見ると、購入価格の中でもとりわけ上昇が目立つのは、エネルギー、鉄鋼、非鉄金属、化学製品などで、いずれも前年比15%以上の大幅な伸びを記録しており、商品市況上昇の影響を受ける財の価格上昇が大きい。

一方、出荷価格は、サプライチェーンの「上流」にある採掘工業品や原材料工業品で前年比15%以上上昇したのに対し、「下流」にある加工工業品では前年比+7.4%と上昇幅は比較的小さく、さらに消費財の価格はほとんど変化がない。衣類や耐久消費財に至っては、それぞれ前年比-0.8%、同-0.6%と、コロナ前から価格が下落している。このように、企業が購入価格の上昇分を、出荷価格に十分転嫁できていないことが、交易条件の悪化を招いており、また、価格転嫁はサプライチェーンの「下流」ほど困難となっている。

なお、企業規模別では、中小零細企業が特に苦しい状況に置かれている。価格決定力に乏しい中小零細企業にとって、現在のように購入価格が急上昇した場合、出荷価格への転嫁が難しく、交易条件が悪化しやすいこと、また、大企業と比べて財務体力がない中小零細企業において、交易条件の悪化による経営状況への影響が深刻化しやすいことが背景にある。今後も購入価格の上昇が続けば、中小零細企業を中心に多くの企業で経営が一段と苦しさを増す懸念がある。

このため、政府は5月、大企業に対して国際商品市況の高騰に伴う資源販売価格の引き上げ自粛を要請、6月には銅やアルミなどの非鉄金属の国家備蓄を放出するなど、サプライチェーンの「下流」にある企業の購入価格の抑制を図っている。さらに、7月には中央銀行である中国人民銀行が預金準備率を引き下げ、市中銀行が中小零細企業の資金繰り支援を行いやすい環境を整えた。これらの政策対応によって、中小零細企業の経営を下支えし、雇用や設備投資への影響を最小限にとどめられるかが、中国経済が堅調を持続するための鍵となろう。日本をはじめ、中国経済にコロナ禍からの回復の牽引役を期待する国・地域にとっても、中国政府の対策が奏功するか、目が離せない。

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