D&Iと女性活躍

2022/04/01 矢島 洋子

古くて新しいテーマともいわれる「女性活躍の今」と「銀行」特有の課題や必要施策のポイントを全12回のコラムで紹介する。第1回は、女性活躍推進法から現在までの変化について解説していきたい。

女性活躍からD&Iへ

2016年4月に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(以下、女性活躍推進法)が施行されてから6年が経過した。施行当初は政府の後押しも強く、計画策定や目標設定の義務を課された大企業の多くも積極的であった。目標としては、管理職登用に注目が集まったため、管理職候補層の短期的な積極登用が盛んに行われた。だが、計画スタートから2~3年で候補層がいなくなり、「他に何をしたら良いのか」「もう女性のみに着目しなくとも良いのではないか」といった声が聞かれるようになった。達成が困難として、目標を引き下げる動きも見られた。

では次に、企業の関心がどこへ向かったかと言えば、「ダイバーシティ&インクルージョン」(以下、D&I)と「働き方改革」である。D&Iは、「女性」を含め、「高齢者」「障がい者」「外国人材」「性的マイノリティ」等、多様な人材を受け入れ(D)、個々の違いを尊重し組織運営に生かす(I)という考え方である。「ダイバーシティ」というスローガンだけでも、能力発揮という視点は含まれていたはずだが、より違いを尊重し生かすという意味合いを強調する目的で、D&Iという表現に移行する企業が増えてきている。

そして、多様な人材の就業継続と活躍には、「ワーク・ライフ・バランス(以下、WLB)」が可能な働き方が必要、ということで、働き方改革への関心もさらに高まっている。働き方改革では、「長時間労働の是正」と「柔軟な働き方の導入」が2本柱だが、コロナ禍突入前の日本企業の多くは、長時間労働の是正に注力した。背景には、2018年7月に公布された「働き方改革関連法」の「罰則付きの時間外労働の上限規制」導入がある。画一的な時間管理による残業削減を効率的に行おうとするあまり、テレワークやフレックスタイム制度などの柔軟な働き方の活用には、従来よりも抑制的になる企業も少なくなかった。テレワーク環境が整っていない状況でコロナ禍に突入したため、最初の緊急事態宣言で一時的に上昇したテレワーク利用率は、宣言解除後に下がってしまった。だが2年を経過する中で、テレワークを含む柔軟な働き方は広がり、さらなる積極利用を検討する企業も増えつつある。

企業が女性活躍からD&Iへとテーマを広げるようになった背景には、女性のみに着目せずとも、多様な人材が活躍できる環境整備を行なえば女性活躍も推進できる、との考え方がある。D&Iの先進企業の中には、「女性や高齢者等、属性に着目してしまうと、かえって偏見を助長する可能性がある」として、あえて対象を限定しないダイバーシティの推進をうたい、社員1人ひとりに向き合うマネジメントやアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を排除するための研修などに力点を置く企業もでてきた。

再び注目の“女性活躍”

だが直近2年ほどは、また女性活躍が注目されている。

これには様々な理由がある。企業の外からの影響としては、まず、「SDGs(持続可能な開発目標)」でジェンダー平等が開発目標の1つに掲げられていることがある。日本では、これまで「Gender Equality」を「男女共同参画」と表現してきたが、SDGsによって、ジェンダー平等という表現が一気に一般化した。また、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき日本政府も2020年に「行動計画」を策定し、人権問題としてのジェンダー平等が再認識された。さらに、「コーポレート・ガバナンスコード」(以下、CGコード)では、2021年の改訂で、「女性の活躍を含む多様性の確保」に「中核人材等への登用」が加わり、女性管理職の目標と達成状況、登用の考え方や人材育成・社内環境整備方針の開示が求められた。女性活躍推進法でも数値目標とその達成状況の開示が求められているが、CGコードでは、登用の考え方や目標が達成できない理由・対策の説明が必要となる点が異なる。

一方企業内にも、改めて女性活躍に着目する理由が生じている。2000年代から女性の総合職採用が増えてきた中で、2010年代以降、妊娠・出産で離職する女性が減っている。育休を取得し、復帰後は短時間勤務などの「時間制約社員」として働く女性社員の働き方とキャリアの問題に向き合うことが、中長期的な管理職登用のパイプライン構築において重要になっている。本来、女性活躍推進法の初期から注目すべき課題ではあったが、短期的登用に終始してしまったため、課題として残されてしまった。さらには、近年企業広告などで、女性をめぐる問題に対する内容が、差別的であるとして炎上する例が相次いでいる。自社内の女性活躍が真に進んでおらず、多様なものの見方が施策決定過程に反映されていないことに一因があるのではないかという認識が広まりつつある。

D&Iにテーマを広げ、全社員を対象とした働き方や人事制度改革を行うことに加え、ジェンダーなど個々の問題に着目し、その改善を確認しながら進む必要性に気づくことで、女性活躍推進のあり方を見直す企業が増えてきている。

(月刊金融ジャーナル「LESSON 女性活躍の今」2022年4月号より転載)

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