女性活躍推進法の意義

2022/06/01 矢島 洋子

4月1日より、女性活躍推進法の一般事業主行動計画策定・届け出及び情報公表の義務の対象が、従業員301人以上から101人以上の事業主に拡大された。法の意義と必要な対応を改めて確認する。

法の意義を捉えているか

当初より計画策定義務が付されていた大企業の中には、管理職の積極登用のみを計画目標とし、2016年の法施行から1、2年のうちにやるべきことを見失ってしまった企業もある。一方、今回策定義務化対象となる中小企業からは、「女性社員がほとんどいない」「子育て層の社員がいない」などの理由から「女性活躍の進め方がわからない」との声も聞かれる。

このように計画策定に行き詰まってしまう原因は、この法の意義をうまく捉えられていないことにあるかもしれない。

「エビデンスベイスド」の重要性

女性活躍推進法の意義を一言で表すならば、「エビデンスに基づく取り組み」が求められている点にある。これは、同じく企業に自主行動計画を求める次世代法との違いでもある。そして、多くの企業の女性活躍推進法対応がうまくいっていない理由もまた、「エビデンスに基づく取り組み」ができていないことにある。このエビデンスは、①状況把握・課題分析 ②目標設定 ③公表の3段階で重要となる。特に、①の「状況把握・課題分析」が計画策定において重要だが、ここがしっかりと行われていない。

事業主行動計画の策定指針には、状況把握・課題分析の方法が具体的に示されている。まず、「採用比率」「平均勤続年数」「管理職比率」「残業時間」の4つの基礎項目により、自社の課題を大掴みする。すでに計画策定した企業では、これらの確認は行われているとみられる。だが、これらの項目に関して、男女に差がある、あるいは国の目標水準に比べて低い、業界他社と比べて低い、ということをもって課題とし、採用が少ないなら積極採用をする、管理職が少ないなら積極登用する、という施策を置いただけでは「課題分析をして計画を立てた」とは言えない。また、この方法では、元々女性がほとんどいない企業では、何もできない、という結論になりがちだ。

必要なのは、自社において、女性の採用や管理職が少ない、あるいは男性よりも女性の就業継続年数が短いのは「なぜか」ということを、エビデンスを用いて分析することだ。「なぜか」の答えは一様ではない。

指針では、基礎項目以外の様々な指標データを用いて、この問いの答えを探ることを推奨している。例えば、採用が少ない場合、応募時点から少ないのか、応募はあるが採用に結び付いていないのかによって、対策は異なる。また、職種や部署への配置状況の偏りによって、今後、受け入れを増やすために何をすべきかが異なってくる。

管理職が少ない原因は、さらに多様だ。どの段階から男女差が広がっているのか、配置や育成機会に差はないのか、評価に偏りはないか、妊娠・出産時にすべての職種・部署で就業継続のための柔軟な働き方が選択可能か、育児期の短時間勤務者の育成・評価は適正か、周囲の同僚との働き方の差は大きくないか、管理職の働き方は非管理職が避けたいと思うような水準になっていないか、転勤など育児や介護との両立困難な問題が昇進・昇格に影響していないか、などが挙げられる。

指針では、従業員へのヒアリングやアンケートなどにより定性的な情報も収集し、課題を分析することを推奨している。それによって把握された「真の職場の課題」を改善するための取り組みと、その取り組みの結果、期待され得る目標を設定するからこそ、計画期間内の取り組みと目標の進捗度を評価し、次の計画策定に生かすことができる。また、女性を特別枠で採用・登用し続けるのではなく、自社が変化することで、特別なことをしなくても女性を採用・登用できる組織になることにも結び付く。また、こうした組織改革なら、現在女性社員や子育て社員がいるかどうかにかかわらず行える。

課題分析が行われない理由

だが、多くの企業でこのような課題分析は行われていない。なぜか。それは、「女性が消極的だから」「女性に向かない仕事だから」という経営層や人事担当の“一様”の思い込みにより、原因を分析するまでもないとされているためだ。そのため、施策も「積極採用」「積極登用」といった特別枠の設定に終わることになる。このように経営層や人事が、思い込みによる無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)に捉われていることにより、エビデンスに基づく計画策定・遂行を通じた組織改革が行われないままの企業が少なくない。一方、近年では、「どうやら消極的なのは女性だけではなく、男性管理職の意識にも問題があるらしい」として、アンコンシャスバイアス研修を導入する企業も増えつつある。しかし、ここでも単なる「意識」の問題として、組織に内在する働き方や制度の問題を客観的に把握しないまま研修だけ行っても効果はあまり期待できない。

自社の真の課題を把握し対策が打てていれば、コーポレートガバナンス・コードへの対応としての「説明」責任も果たせる。改めて、エビデンスに基づく計画策定・遂行に立ち戻ってはどうだろうか。

(月刊金融ジャーナル「LESSON 女性活躍の今」2022年6月号より転載)

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