女性の採用と職域拡大

2022/07/01 矢島 洋子

「採用」は女性活躍推進において「入り口」であり「出口」でもある。採用しなければ何も始まらないが、社内のあらゆる部署で就業継続や活躍のできる環境が整わなければ、多くを採用することは難しい。

目標設定に「採用比率」を掲げる理由

女性活躍推進法に基づく行動計画における数値目標として、「管理職比率」と並んで多くの企業が掲げたのが「採用比率」である。なぜ、こうした選択がなされたのか。

第一に「採用比率」は人事にとってコントロールしやすい目標と考えられたためである。「就業継続年数の男女差」や「従業員に占める女性比率」では、男性の離職率を予測し、コントロールすることが難しい。また、社歴が長く、従業員規模の大きな企業では、これらの平均値を短期的に引き上げるのは困難だ。一方、採用比率であれば、短期的に、かつ経営や人事の方針・選択で引き上げられる可能性がある。さらに言えば、これまでの採用において、男性を多く採用するという方針や暗黙の数値目標を持っていた企業も少なくなく、従って、そうした従来の男性優位のバイアスを取り除けば、ある程度確実に、女性の採用比率を引き上げられるという確信を持てている、と言う背景もある。

ただし、女性の採用比率が低い企業にも2つのタイプがある。応募が少ない企業と、応募はあるが採用割合が低くなっている企業だ。前述の方法で短期的に採用比率を引き上げられるのは、後者のタイプのみだ。応募の少ない企業は、従業員に占める女性比率も低い。背景に、従来「女性には向かない」とされた職種や働き方が主となっていることや、女性の進学率の低い理工系の専門を要する職種が主であるといった事情がある。こうした企業では、数少ない従業員女性の定着や活躍を促しロールモデルとして示すことで応募を奨励したり、地域の学校などと連携して理系進学を推進する取り組みを行うなど、中長期的な計画で応募を増やしていくほかない。一方、応募は確保できており、高い採用目標を設定できると考える企業も、いきなりこれまでの水準から大幅に引き上げるのには課題がある。実際に、2016年の法施行当初は、高い割合での採用を実現させたが、継続することが困難になった大企業もある。採用した女性を配置する部署があるか、という問題のためである。

採用増と不可分な職域拡大

従来、女性を配置する部署や職種が限定的であった企業には、女性を受け入れることが困難な理由を有する部署や職種が存在する。一定程度は、経営や人事の方針ということで、受け入れを進めることができたとしても、根本的な環境要因を変えなければ、早晩、それらの部署の管理職が「これ以上、受け入れられない」と言うか、配置された女性が辞めてしまうか、あるいはその両方が起こる。問題は、女性活躍推進法以前から言われていた女性の職域拡大と、採用とをセットで進めることができていないことにより生じている。

職域拡大を阻むのは、「女性に向いていない」とされる仕事や働き方だ。重いものを運ぶ必要がある、キツイ・汚い仕事や職場環境、といったものだが、こうした仕事は「若い男性も避けたがる」と認識され、男性を含めた人材確保策として環境を変える努力をしている企業が近年増えてきている。また、「女性に営業は向かない」「女性は数値目標を持つのが苦手だ」といった、アンコンシャス・バイアスによる配置拒否もあるが、研修で管理職にバイアスの気づきを与え、実際に仕事をさせてみるよう促す企業の取り組みもある。「顧客が女性担当者を嫌がる」といった理由もよく聞かれるが、一部の顧客の声を一般化しているに過ぎず、地域銀行や信用金庫でも、上司が担当者に適任と判断しアサインしたことを顧客に説明して担当させたところ、顧客からの信頼を勝ち得たとする例が聞かれるようになった。子育てなどの制約で、飲み会やゴルフ等の接待が行えないとしても、大事なのは、従来と同じ方法で仕事ができるかではなく、方法はどうあれ、顧客との関係性を築くことにある。従来の仕事の仕方や働き方を強いるのではなく、方法はそれぞれの社員に任せて成果を評価するマネジメントを取り入れることは、女性のみならず多様な人材を生かすことにつながる。

自律的キャリアにつながる取り組み

また、近年「自律的キャリア形成」支援を標榜し、手上げ制など社員の希望を考慮した配置を取り入れる企業もある。こうした施策からの示唆としては、社員の積極的な職域拡大へのチャレンジを引き出すためには、各部署・ポストに関する情報提供が重要だということだ。仕事の内容や働き方はもちろん、必要とされるスキルや適性、獲得が期待できる経験などの情報を公開し、各自が選択できるようにすることによって、チャレンジしてみようという意欲が引き出せる。女性の職域拡大にもこうした取り組みは必要であろう。

「採用比率」は一見短期的に大きく引き上げられる可能性のある指標であり、社内外に女性活躍の積極的な姿勢を示すという意味では、目標設定に意義はあるが、大きく引き上げるには、中長期的な視点で職域拡大のための環境整備とセットで取り組むことが不可欠である。結果として、自然体で女性を採用することができるようになるといった「出口」を目指した計画が求められる。

(月刊金融ジャーナル「LESSON 女性活躍の今」2022年7月号より転載)

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