エビデンスで変わる政策形成~イギリスにおける「エビデンスに基づく政策」の動向、ランダム化比較試験による実証、及び日本への示唆~

2016/02/12 家子 直幸、小林 庸平、松岡 夏子、西尾 真治
EBPM

概要

  • 政策目的を達成するための効果的な施策を科学的根拠に基づいて意思決定する「エビデンスに基づく政策(Evidence-Based Policy)」は、欧米の先進国で急速に導入が進んでおり、さらに開発援助を通じ途上国にも展開されているが、日本ではいくつかの政策分野を除き実践例は僅少である。
  • 「施策の効果把握のためのエビデンス」に関連し、近年特に注目されているのが、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial)である。このような実証的な手法を活用すれば施策の効果をより正確に測定できるが、日本では医学研究領域以外での普及が遅れている。
  • 本稿では、ランダム化比較試験等の実証的手法を社会政策分野に幅広く適用し、エビデンスに基づく政策を国家的に推進しているイギリスへの現地調査、及び文献調査の結果を取りまとめた。特に、1997年以降のトニー・ブレア政権と2010年以降のデービッド・キャメロン政権を取り上げ、政権交代がなされた後もエビデンスを重視する方針が継承されたことに着目している。
  • イギリスの政策立案では「何が有効か」(what works)が非常に重視されており、実証的手法によるエビデンスの形成を政府が推奨している。その際、行動経済学の理論や知見を活用し、小規模かつ財政効果の大きな施策を取り上げて、施策効果の向上と政府支出の効率化を実証的に達成してみせたことで、エビデンスを重視する傾向がさらに加速化している。
  • イギリスでは自治体や非営利団体など現場の主体がエビデンスを活用するEvidence-Based Practiceが実践できるよう、ここ数年間で多くの中間支援組織が立ち上がった。なかでも、エビデンスの形成・伝達・適用の3段階すべてを担う官民出資の組織What Works Centreでは、政府のみならず政策に関わる広範なステークホルダーが関わり、相互に協働を促す工夫が実装されている。
  • 20年以上も前から研究者を中心に下地が作られ、ここ数年でエビデンスに基づく政策を社会実装するためのエコシステム(各主体間の有機的な結びつき)が急速に強化されたイギリスから日本が得られる示唆は多い。実証のデザインの工夫、適切なテーマの選択、官民協働組織の活用等を通じた独立性の担保など、ポイントを押さえることで円滑な導入を図ってきた点は着目に値する。
  • 日本でも、関係者の対話と協働の輪を広げ、世界的な潮流をとらえるべき時機にある。

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