イノベーションと特許制度 ~特許制度の現代的課題~

2023/08/01 肥塚 直人
知的財産
知財
イノベーション

問題の所在

政策上、イノベーションの重要性がますます強調されている。イノベーションは国の競争力の源泉であると同時に、P.F.ドラッカーが企業の目的は「顧客創造」にあり、イノベーションとマーケティングがそのために必要となる経営の本質的な機能であると指摘している[1]ように、企業の競争力の源泉でもある。事業環境が急激に変化する中、企業はより良い経営資源を獲得し、当該経営資源を活かすために機会・脅威を感知し、機会を捕捉し、「知」を結合、保護、再配置することで競争力を維持向上させていくことが重要となっている[2]。また大企業が陥りやすいサクセストラップとして、「知の深化」に偏った経営や事業活動を行うとイノベーションの枯渇を招く可能性が高く、「知の探索」をバランス良く行う、「両利きの経営」[3]が求められ、経営者には持続的なイノベーションの仕組みを構築していくことが求められている。

イノベーションは、技術革新より広い概念ではあるが、歴史的には技術革新がイノベーションに貢献し、企業成長を促すことで、経済産業の成長にもつながった。発明を保護する特許制度は、技術革新を支え、イノベーションを促進する制度であることが期待されてきた経緯があるが、特許制度の本質については諸説あり、また、特許制度がイノベーションに貢献しているかどうかについても様々な議論が行われている。

無形資産の重要性が高まり、無形資産経営の時代とも呼ばれているが、企業がイノベーションを生み出す源泉は技術だけでなく、様々な経営資源の組み合わせであることから、無形資産を制度的に捉えようとした場合、特許制度以外の知的財産制度の領域との交錯が進んでいる。企業が検討する知的財産戦略においても、特許戦略だけでなく、データの利活用までも含めた包括的な戦略検討が必要となっており、18世紀末から19世紀にかけて整備された特許制度は現代的な課題に直面していると言える。

本稿ではアメリカを中心とした特許制度の歴史的展開を振り返りつつ、特許制度が時代によってどのような理解をされてきたのかについて概観した後、特許制度とイノベーションの関係について議論の蓄積が多く見られるアメリカの議論を整理することで、特許制度を制度論として検討する際に必要となる視点の整理を試みる。

続きは全文紹介をご覧ください。


[1] P.F. ドラッカー(上田惇生 訳)『現代の経営[上]』(ダイヤモンド社、2006年)46-47頁。
[2] David J. Teece, Explicating Dynamic Capabilities: The Nature and Microfoundations of (Sustainable) Enterprise Performance, Strategic Management Journal Vol.28(13), 1319-1350 (2007). 同論文の邦語文献として、渡部直樹編『ケイパビリティの組織論・戦略論』(中央経済社、2010年)の第1章に収録されている、デビッド・J・ティース「ダイナミック・ケイパビリティの解明 (持続的な)企業のパフォーマンスの性質とミクロ的基礎」がある。
[3] チャールズ・A・オライリー/マイケル・L・タッシュマン(入山章栄 監訳)『両利きの経営』(東洋経済新報社、2019年)。

テーマ・タグから見つける

テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。