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中谷巌コラム

「リストラに際して経営者が心すべきこと」

2008.12.25

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 理事長 中谷巌

 世界経済は金融危機から実体経済へと、危機がじわじわと世界中に浸透していく、そういうプロセスにある。したがって、2009年の経済はかつてないほどの厳しい様相を呈することになるだろう。
 最近は、そのことを先取りして、リストラがらみの解雇が増えてきた。1930年代の大恐慌の時には、アメリカの失業率は25%にも達したが、今回の世界同時大不況においても、2けた台の失業率は覚悟しておく必要があるのではないか。何といっても、自動車の販売台数が対前年比で30%も激減するというのは尋常のことではない。世の中はカネが動かないだけではなく、今や、モノも動かなくなってきたのである。
 このような時に際して大事なのは、ぐっと身を縮めて、地道に自らの内面を磨くということではないか。そして、その先にあるのは「勇気ある決断」である。
 しかし「勇気ある決断」と言っても、「自分一人の身の安全を守る」という狭い考え方で決断してもそれではとうてい成功しないだろう。なぜなら、人間は社会的動物だからである。人は社会によって生かされているのであるから、「勇気ある決断」は常に社会への感謝の念と恩返しの思想が宿ってなければならないということである。
 注文が激減した従業員をどうしても解雇せざるを得なくなった社長のことを考えてみよう。従業員のくびを切るという苦渋の選択をおこなう場合、「エイや」でやってしまってそれで万事がすむかというと、そんな甘いものではない。
 日本の会社はほとんどの場合、従業員の頑張りで持ってきた。だから、解雇する場合にもそれなりの手続きが必要である。人がいらなくなったから「ハイ!それまでよ」という「従業員は変動コスト」という考えでは、間違いなく会社はつぶれるだろう。
 解雇という苦渋の選択をする場合、それにはまず「公平感」がなければならない。なんで俺が?という疑念が生じないようにする工夫である。あくまで、従業員自らが自らの意思で退職を選択したという状況をつくる必要がある。それは割増退職金であったり、それ以外の方法でもかまわない。
 また、従業員全体の「納得性」も絶対に必要である。社員が「なるほど、これはどうにもならない事態なんだ。そこまで経営者が悩み抜き、そこまで社長が自己犠牲をいとわないのなら、自分たちだってそれにこたえる用意がある」と思ってくれるようになるまで、社長は苦しまなければならない。
 二宮尊徳が飢饉に瀕している農村を立ち直らせるときに、「農民が飢えているのなら、まず、その苦しみを指導者たるべき武士たちが断食によって味わうことから始めねばならぬ」といった話(「手だてに困った時の飢饉の救済法」、内村鑑三著『代表的日本人』)は有名だが、代官たちが本当に断食をはじめ、そのために死ぬかもしれないと農民たちが悟った時、その農村は立ち直ったのであった。「お殿さまを死なせてはならない」と農民たちがそれまでの数倍、猛烈に働き始めたからであった。
 いずれにしても、今年から、来年にかけて、あるいは再来年も、非常に苦しい年になる。こういうときこそ、人の上に立つ人は、沈思黙考し、今何が必要なのかをとことん考えてみるべきなのであろう。問われるのは、「スキル」ではなく、「哲学」である。(終わり)

中谷巌 中谷 巌 Iwao Nakatani
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 理事長
一橋大学経済学部。ハーバード大学Ph.D(経済学博士)を経て、大阪大学経済学部教授、一橋大学商学部教授を歴任。現在、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 理事長 。

(注)

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