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中谷巌コラム

今、若者たちへ 次世代に贈るメッセージ

2009.02.27

(2009年2月6日付 日本経済新聞 掲載)
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一つのことに一万時間没頭しよう
 リベラルアーツ修め、「志」打ち立てよ

 「私自身、若いころはかなりとんがっていました」――。こう語るのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの中谷巌理事長。気鋭の経済学者として、また企業社外取締役などで名をはせた同氏だが、青春時代には様々な葛藤を抱えていたという。そこから脱するきっかけとなったのが米国留学体験。当時を振り返り、今の若い人たちにも「とんがる」ことを抑えず、自分を磨き、それを生かすための志を立ててほしいと、熱いエールを送る。

「とんがる」のが20代の仕事だ!
若者の強みとは何か。嫌みに聞こえるでしょうが、「経験が浅く、知識が不十分なこと」で
すね。そのため、若者の精神状態は多くの場合、不安定です。しかし、実はその不安定性こそ、若者のエネルギーの源泉なのです。年寄りは、苦い過去の経験から、えてして行動は慎重になりますが、若者は瞬間、瞬間が人生のすべてなのですね。それだけに瞬時の行動力が素晴しい。これが若者の魅力です。
 若者が老成した考え方に陥れば、エネルギーは抑制されてしまいます。私の個人的な希望を申し上げれば、20代は「そこまでやるか」というくらいにとんがり、世間とぶつかってほしい。様々な失敗の中から世界や人間に対する深い「知恵」が生まれてくるからです。それが若者の最大の強みだということを、まず申し上げたい。
 私自身、若いころはかなりとんがっていた。父親は超多忙な商売人で子供などには構っておれなかった。それに加えて私は7人兄弟中、6番目の三男坊でしたから、自分で「ここにいるぞー」と「存在証明」をしない限り、親は振り向いてくれなかった。「愛情欠乏症」ですね。一体何をすれば注目してもらえるのか、「生の充実」を感じられるのか、その証しを求め続けていたような気がします。

ハーバード留学で初めて本気で挑戦
 そういう状況だったせいか、大学に入っても授業にまったく出席しない不良学生で、演劇にのめり込んだ時期もありました。講義を聴いても、生の充実は得られない―― そんな不遜(ふそん)な学生でした。
 卒業後、そういうとんがった人間を採用してくれた大手自動車メーカーは大変だったでしょうね。配属先は北米輸出営業。当時、売り上げが毎年2けたで伸びていたのに、大赤字が続いていた。何とかできるはずだと入社3年目のころ、誰に頼まれたわけでもないのに、その要因を分析、赤字解消策の提言書をまとめて上司に提出しましたが、上司は取り上げてくれません。それまでのやり方を強烈に批判してあったからです。それで、仕方なく、役員に直訴したところ、その提言は採用され、赤字は解消しました。もちろん、直属の上司からはにらまれましたね。当然です。組織の約束事に合わないやり方だったからです。
 結局、それがきっかけで会社を辞め、恐れ多くも天下のハーバード大学大学院博士課程に留学することとなったのです。周りからは「身の程知らずの思い上がりだ」と冷笑されましたが、とにもかくにも、私のとんでもない「とんがり」が留学を後押ししてくれたように思います。
 しかし、留学先で待っていたものは、とてつもない大きな壁でした。ノーベル賞級の教授陣、めちゃくちゃ頭がいい同級生。自分のかなわない世界があること、これまでの自分がいかにごう慢だったかを思い知らされましたね。結局、人生で初めて、自分の能力の限界に本気で挑戦する数年間を過ごすことができました。周りには大変迷惑をかけてしまったけれども、実力以上に「とんがる」ことで、このような貴重な経験をすることができたように思います。私が若い人に「とんがってほしい」と考えるゆえんですね。

「鉱脈クラブ」に入り人生をより豊かに
 さらに、私は20代の若者が大きく成長するには、何か一つのことに一万時間を費やすべきだという「一万時間説」を唱えています。一つのことにそれだけの時間没頭すれば、必ずひとかどの人物になれる。その理由は、どんな分野でも一万時間費やすとプロ級のスキルが身につき、同じような経験を持つ人たちの集まりである「鉱脈クラブ」に入会できるからです。
 比喩的に申し上げているのですが、地下の鉱脈はつながっているので、一つの鉱脈を掘り当てれば、ほかの分野との交流ができるということです。そういう人的なネットワークから多くのことを学べるようになるのです。それが自分の生き方にとって大きな財産になるのです。

国際社会で通用する高い教養を身に付ける
 しかし、ここで安心しては何にもならない。大事なことは、一万時間も費やして獲得した人脈、知識、スキルをその後の人生にどう生かしていくか。そこで大事になるのが「志」です。「志」を磨いていくことが30代にやるべきことです。
 「志」を磨くには、まず、自分は何のためにこの世に生を授けられたのか、社会のために何をなすべき人間なのかという「自己認識」を持つことが必要です。
 そのための第一歩は、「日本のことを知る」ことでしょう。留学中、パーティーなどでよく日本のことを聞かれましたが、自分がいかに日本という国を知らないか、痛感しました。戦後教育の欠陥だと思いますが、私たちはまともに日本の歴史や文化を学んでいないのですね。知っているのは年表の知識ぐらいでしょうか。これでは誰も相手にしてくれませんし、まして、自分が何者であるかなどわかるはずがありません。
 我々の祖先が何を考え、いかにして今日のような社会を築いてきたかを知るということは、現在の私たち自身を知ることにつながります。私たちは過去と断絶して生きているわけではないからです。表面的な知識を得るのではなく、ものごとの背景にある本当の意味や底流に流れる思想、哲学を知ることで、しっかりとした歴史観や世界観を養うことができます。そのことがやがて確固たる自己認識の確立につながり、「志」を生む源泉になるのです。

「歴史」「文化」の勉強に目を輝かせる企業人
 そういう「志」を持ったリーダーを育成したいと考え、私は2001年から多摩大学に「40歳代CEO育成講座」を開講し、次世代を担う企業人に、歴史、哲学、宗教、文明論などの本格的なリベラルアーツ教育を試みました。驚いたのは、こうした一見ビジネスに関係のないテーマに彼らが目を輝かせ、猛烈に勉強するということ。そして、一年もたつと、見違えるような立派な「志」を持った企業人に成長していくということでした。
 かく言う私自身も、この「知の格闘」に大いに刺激を受け、遅ればせながら専門の経済学だけではなく、歴史や哲学、宗教、文明論などの幅広い教養を身につけることが経済を論じる際にも不可欠だと気づくようになったのです。とりわけ、経済学でいうところのホモエコノミクスという「孤立した経済人」の前提は、日本社会にはそぐわないのではないかと感じております。
 そのような私自身の心の変遷をもとに最近書き下ろしたのが、『資本主義はなぜ自壊したのか』という著書なのです。一読いただければ幸いです。

「日々、自己研鑽」がシンクタンクでの仕事
 最後に、私が理事長を務める三菱UFJリサーチ&コンサルティングの紹介をさせてください。この会社は、調査や研究、経営コンサルティング、教育研修などを幅広く展開している日本を代表する総合シンクタンクの一つです。そこでは、様々な分野で、高い専門性と情熱を持った四百人を超えるコンサルタント・研究員が集い、互いに切磋琢磨(せっさたくま)しています。
 どんな業種であれ、会社に入って仕事をするという行為自体は人生勉強そのものでしょう。しかし、シンクタンクの場合、具体的に手で触れることができる「モノ」を作っているわけではありません。シンクタンクの仕事というのは、問題解決のためにいかに含蓄のある知恵を出すかという仕事ですので、コンサルタントや研究員一人ひとりの人間としての力量こそが問われることになります。その意味で、シンクタンクでは、教養を深め、専門性を磨き、人を説得する人間性を磨き続ける努力が求められます。まさに、「日々、これ研鑽(けんさん)」です。そういう会社で自分を磨きたいという「志」のある皆さんをお待ちしています。

中谷巌 中谷 巌 Iwao Nakatani
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 理事長
一橋大学経済学部卒業。ハーバード大学Ph.D(経済学博士)を経て、大阪大学経済学部教授、一橋大学商学部教授を歴任。現在、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 理事長 。

(注)

本コラムの内容は自由に引用していただいて構いませんが、引用される際は、必ず「三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社のホームページから引用」等の表現により、ソースを明記していただくようお願いいたします。

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