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中谷巌コラム

「四半期決算開示」で経営を歪めていないか

2009.04.23

三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長 中谷巌

 周知のように、平成20年度から上場企業に四半期決算の開示が義務付けられた。この制度は上場企業に経営内容を迅速に開示させることで投資家に対して経営の透明性を確保するという目的で導入されたものである。このことだけをとってみれば、四半期決算の開示制度の導入は投資家保護の観点から一歩前進した「よい制度」であると言えるであろう。
 しかし、実態はどうか。世界的な不況がやってきたという事情もあるが、経営者の四半期決算開示に対する評判はすこぶる良くない。なぜか。それは、三か月ごとに投資家からみて満足のいく数字を見せなければならないとなると、どうしても経営上、無理をせざるをえなくなるからである。
 例えば、利益を出すために労務コストを急激に下げたいとなると、これまでやってこなかったような解雇を断行したくなる。しかし、下手に解雇を急ぐと、組織の一体感が損なわれ、現場の当事者意識が低下するかもしれない。あるいは、今期のコストを下げるために、将来的には今やっておいた方がよい投資も先延ばしした方がよいという結論になるかもしれない。その結果、本来は長期的にみて望ましいと考えられる、あるべき経営方針がゆがめられる可能性が出てくる。
 ソニーの故盛田昭夫氏は、いつもこのことを言っておられた。アメリカの四半期決算制度は短期的利益を重視するあまり、経営の方向性を誤らせるから駄目なんだと。この「正論」についてはアメリカの経営者も概ね反対はしなかったようだが、結局、ウォールストリートの論理に押し切られ、四半期決算開示はグローバルスタンダードと化してしまった。そして、日本にも投資家保護という美名のもと、この考え方が導入され、日本の政策当局、産業界もこの流れに逆らうことができなかった。
 しかし、言うまでもなく、企業の目的は四半期ごとによい数字を出すことではない。企業は長期持続的な着実な利益成長を遂げてこそ、社会的責任を果たすことができる。もし、四半期の数字が多少悪くなっても、経営者が長期的な発展のためにはそれでよいという判断をするならば、それを自信を持って推進すべきなのである。四半期決算の数字が悪くなって、市場の評価が下がるのが嫌だということで、無理に長期戦略を歪めて数字を作るようなことをやり続けると、その企業の将来性は著しく損なわれることになるであろう。
 しかしながら、私は、四半期決算の開示という「パンドラの箱」を空けてしまった以上は、おそらく後戻りは難しいと思う。しかし、経営者が短期利益追求に走らないような制度的工夫についてはいろいろ考えてみる必要があると考える。例えば、株主に均等な議決権を与えるのではなく、企業の長期的成長に関心のある長期株式保有者にはより多くの議決権を与えるといった制度はどうだろうか。そうすれば、短期で売り抜けようという株主の発言権は弱くなるから、経営者は長期的成長戦略についてじっくりと長期株式保有者に説明し、彼らさえ説得できれば、四半期ごとに無理な数字を作る必要もなくなる。
 四半期決算開示に限らず、内部統制システムやコーポレート・ガバナンスのあり方なども含めて、我々はここらでアメリカ型資本市場の考え方の問題点を洗い直し、日本企業の強さに磨きをかけるためにはどのような制度改革が必要なのか、基本に戻って再検討する必要に迫れているのではないだろうか。

中谷巌 中谷 巌 Iwao Nakatani
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 理事長
一橋大学経済学部卒業。ハーバード大学Ph.D(経済学博士)を経て、大阪大学経済学部教授、一橋大学商学部教授を歴任。現在、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 理事長 。

(注)

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