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中谷巌コラム

「景気の底打ち」と「景気回復」

2009.07.01

三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長 中谷巌
 
「景気は底を打った」「景気回復はもうすぐ」といった楽観論があちこちから聞こえてくるようになった。それはそれで嬉しいことに違いないし、まったく根拠のないことでもない。しかし、「景気は底を打った」「景気回復はもうすぐ」といった場合、それぞれの言葉の正確な意味づけをしておかないと間違った解釈をしかねないので注意が必要だ。  まず、「景気が底を打った」という場合、これはリーマンショック以降、猛烈な在庫調整によって大きく落ち込んでいた生産活動が元に戻り始めた、という意味であるとすれば事実である。自動車部品業界などは、前年比59パーセントも減産していたが、在庫調整が進展し、前年比42パーセント減といったレベルまで生産がもどってきた。
 前年比で59パーセントも減産をしなければならなかったときは確かに「底」であり、在庫調整の結果、生産が前年比42パーセント減の水準まで戻ってくれば、「景気は底を打った」と関係者が感じることは自然なことである。これが昨今、「景気は底を打った」と言われるゆえんである。
 しかし、それは決して「景気が回復した」ことにはならない。なぜなら、依然として、ショックが始まる前に比べると、生産活動は42パーセントも落ち込んでいるからである。「景気が回復」するとは、少なくとも、生産の水準がショック前の水準にまで戻ってくるということが前提になるのではないか。そうなれば、確かに「景気は回復した」といってもよいだろう。
 それならば、「底を打った」景気が「回復」するのはいつになるのだろうか。その答えはなかなか難しいが、しかし、今回のような大きなショックの後ではそれが容易なことではなく、かなりの時間がかかることは間違いない。少なくとも、「今年後半から景気は回復する」といった見方が表明される場合、それが「景気は底を打った」という意味あいで使われているのならともかく、生産水準がショック前の水準に戻り、なおかつ元気良くその後も経済が成長していくという意味ならば、それはあり得ないと言わざるを得ない。つまり、ここでいう「景気回復」はそんな短期間には難しいということである。
 なぜ本格的な「景気回復」が難しいかというと、何と言っても、まず挙げなければならないのは、アメリカを中心とする金融危機がまだ終わっていないからである。オバマ政権は、アメリカの主要金融機関のバランスシートが正常に戻り始めたことを強調しているが、しかし、実は、主要金融機関の不良資産の処理は終わっていない。公的資金注入によって資本は増強されたが、不良債権の買取りにはまだ着手していないし、その不良債権の金額が正確にどの程度大きいのかは明らかにされていない。ここの「膿出し」が終わらないと、貸し出しは増えず、実体経済はそれに応じて低迷を続けざるを得ない。
 もちろん、株式市場をはじめとする資産価格の大幅な下落が消費や投資に与えるマイナスの影響もまだまだ大きい。この「逆資産効果」が「景気回復」を遅らせる大きな要因になっているが、これもそう簡単に解消することは期待できない。
 「景気の底打ち感」によって、金融市場は少し持ち直している。これが続いてほしいと願うのは筆者だけではない。しかし、ここで述べた意味での「景気回復」にはまだまだ時間がかかる。このことはしっかり認識しておく必要があるのではないだろうか。

中谷巌 中谷 巌 Iwao Nakatani
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 理事長
一橋大学経済学部卒業。ハーバード大学Ph.D(経済学博士)を経て、大阪大学経済学部教授、一橋大学商学部教授を歴任。現在、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 理事長 。

(注)

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