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サーチ・ナウ
2008.11.04 サーチ・ナウ:省庁版「組織は戦略に従う」「戦略は組織に従う」
組織は戦略に従うのか。それとも、戦略は組織に従うのか。前者は経営学者であるチャンドラーが約半世紀前(注1)に、後者は同じく経営学者であるアンゾフが約30年前(注2)に、それぞれ提示した命題である。今、我が国中央省庁の数ある公共経営改革の1つの取り組みが、これら2つの命題の岐路にさしかかっている。
2008年6月27日に閣議決定された「経済財政改革の基本方針2008」、いわゆる骨太の方針2008では、福田首相(当時)が提唱した「ムダ・ゼロ政府」実現の一環として、2009年度までに、中央省庁において『目標による組織管理』を試行することを求めた。この背景・意図については、同年4月15日の経済財政諮問会議における民間議員提出ペーパーで以下のように説明されている。我が国の中央省庁では、これまでに公共経営改革の一環として、(1)「施策」単位での目標設定・評価を"政策評価制度(注3)"で、(2)「職員」単位での目標設定・評価を"人事評価制度(注4)"で、それぞれ取り組んできた。今回の『目標による組織管理』は、これらに加えて、(3)「組織(局・課)」単位での目標設定・評価に新たに取り組むことを求めていると言える。
| □組織についても、目標による管理(Management by Objectives)を 民間企業では、企画・管理部門でも目標管理制度が機能している。役所では、多くの組織で年間の 業務目標が決められていない。各局各課で年度初めに年間の目標を決め、終了後に達成度を 評価すべきである。 注)政策評価は導入されており、職員の目標による評価も実施されるが、政策と職員の評価が、 組織評価につながっていない。 |
目標による管理(Management by Objectives)という言葉を初めて用いたドラッカーは、目標の持つ役割を2つ挙げている。1つは「組織を構成する者それぞれの働きを、隙間・摩擦・重複なく、組織全体が追求する共通の方向に向けさせる」役割であり、もう1つは「個人が仕事を通じて到達したいレベルを自ら設定することで、その達成に向けて最善を尽くそうとする強い動機をもたらす」役割である(注5)。
本来、施策の目標、個人の目標は、それぞれが1つの目標体系の中で有機的かつ整合的に結びついていてこそ、ドラッカーの言う目標による管理が実現しうるものと考える。しかし、今の行政組織ではそれがなかなか実現していない。政策評価制度の下で設定される各施策の目標と、人事評価制度の下で設定される各職員の目標は、それぞれが区々・別個に設定されており、双方を結びつける手だてが講じられてこなかったためである。こうした現状を解決する術として、「組織」に着目した目標管理を提唱した諮問会議の主張は理にかなっている。しかし、仮に既存の評価制度に屋上屋を重ねる形で、全く別の新たな評価制度を導入する形になるのであればあまりにお粗末であろう。
ここで筆者が提言したいのが、局・課単位での『戦略目標』の設定と、各局各課の戦略目標をベースにした省・局単位での『戦略計画』の策定である。これまでも、中央省庁では××戦略、××計画という名前のつく文書が多数作成されてきた。しかし、これらのほとんどは、その時点でそれぞれの組織が抱えている様々な所掌業務をホッチキスして作成した、総花的・現状肯定的なリストでしかない。これらを大幅に改良し、例えば、戦略的事業単位(SBU)としての局・課レベルで野心的かつ測定可能な『戦略目標』を複数設定し、各目標の「達成水準」「達成時期」、目標達成に対して直接的な責任を有する「マネージャー(局長・課長)名」を明記する。さらに省・局レベルでは、各局・各課が提示した達成目標間の「優先順位」と、各達成目標に配分されるべき「経営資源」(人・物・金)を徹底的に議論し、意思決定する。これらの検討プロセス(なぜそのように判断したのか)と検討結果とをまとめたものが、筆者の主張する省・局単位での『戦略計画』となる。
こうした『戦略計画』が全ての省・全ての局で横一線に明示されるのであれば、その戦略計画を構成する具体的な(政策)手段としての「施策」の目標設定や評価<政策評価>も、また、その戦略計画を具体的に担っている組織を構成する「職員」の目標設定や評価<人事評価>も、有機的かつ整合的に行われることになるはずである。さらに、こうした『戦略計画』の位置づけ・重要性を政府部内で相対的に高めていけば、『戦略計画』を達成する上で最適な形とすべく、現状の組織や所掌事務を縦割りの垣根を越えて改編し、それぞれのパフォーマンスを高めていこうとする動機が省・局・課のそれぞれのレベルで生まれるはずである。
冒頭の2つの命題に立ち戻るのであれば、確かにどちらも正しい。我が国の中央省庁の現状を考えれば、まずは「戦略は(現行の)組織に」従って策定し、それぞれの戦略目標の意図・責任者・経営資源・優先順位を明確にする必要がある。その上で、何度かPDCAサイクルを回していくことにより、ゆくゆくは「組織は(新たな)戦略に」従って見直されていくべきであると筆者は考える。
(注2)Ansoff, H.I.(1979), Strategic Management。
(注3)詳しくは総務省行政評価局ホームページ。http://www.soumu.go.jp/hyouka/seisaku_n/index.html
(注4)詳しくは人事院ホームページ。http://www.jinji.go.jp/jinjihyouka/index.htm
(注5)Drucker, P.F (1954), The Practice of Management。上田惇生訳(1996)『ドラッカー選書[新訳]現代の経営(上)』ダイヤモンド社