ホーム > 政策研究事業 > サーチ・ナウ > 昨今の円高はなぜ生じているのか?
サーチ・ナウ
2008.12.08 昨今の円高はなぜ生じているのか?
米欧を震源地とする金融危機は世界各国に飛び火しつつ、各国の実態経済を悪化させている。IMF World Economic Outlook(2008年11月)によれば、世界経済成長率は2007年の5%から鈍化し、2008年は3.75%、2009年には2%強に留まる見通しである。我が国経済も例外ではない。11月17日に発表された2008年7〜9月期SNA一次速報値によれば、実質GDP成長率は前期比−0.1%、名目GDP成長率は前期比−0.5%となり2期連続のマイナスとなった。2008年4〜6月期と比較すると減速幅は縮小したとはいえ、10月以降の危機の深化を念頭におけば実態経済の悪化はこれからという見方も十分可能である状況だ。
さて、このような情勢を反映して我が国の為替レートは円高が進展した。円高の進展は、金融危機の影響が比較的軽微である円への信認を高めることで円の価値を高めるという側面もあり得るが、データに基づき確認してみるとどのようなことがいえるのだろうか。米国ドルの状況とあわせて確認してみよう。
為替レートの動向を把握するにあたっては、円/ドルといった二国間レートではなく、貿易相手国全体と自国通貨とのレートである実効為替レートを参照するのが望ましい。実効為替レートは外貨建て(外国通貨/自国通貨)であるため、数値が上昇すれば円高、下落すれば円安となる。まず日米の実効為替レート(名目、実質)の動向をみる(図表1)と、2008年11月時点の日米の実効為替レートは大きく上昇している。貿易相手国との相対価格の変化を含む名目実効為替レートでみると、我が国の場合、2008年4月から8月にかけて円が下落したが、9月には前月比4%、10月は前月比10%、そして11月は前月比6%と大幅な円高が進展している。この水準を見る限り円高のインパクトが実態経済に与える影響は大きいと推察される。米国の場合は、2003年以降トレンドとしてドル安が続いているが、2008年8月以降ドルは上昇しており、10月は前月比6%の上昇、11月は前月比2%の上昇となっていることがわかる。
市場参加者が直面するのは貿易相手国との相対的な物価の差を含む名目実効為替レートであることを念頭に置きながら、次に名目実効為替レートの変動要因を分解してみることにしよう。名目実効為替レートの変化は定義上、(1)実質実効為替レートの変化と(2)貿易相手国と自国との相対物価の変化とに分解することが可能である。図表2は名目実効為替レートの前月比(%)を寄与度分解して、(1)実質実効為替レートと(2)貿易相手国と自国との相対物価が名目実効為替レートの変化にどの程度影響を与えているかを見ているが、直近時点の名目実効為替レートの変化幅は我が国が−3%から10%台に位置しているのに対して、米国の場合は−2%から6%台となっており我が国の為替レートの変動幅が大きいことがみてとれる。そしてもう一つ特徴として浮かび上がるのが、我が国の為替レートの変化に対して(2)貿易相手国と自国との相対物価の変化の寄与が大きいという点である。上昇が著しかった10月時点の円高は名目実効為替レートを前月比10.3%上昇(円高)させたが、そのうち3.1%が(1)実質実効為替レートの寄与、残りの7.2%が(2)貿易相手国と自国との相対物価の変化の寄与である。
(1)実質実効為替レートの変化は中長期的には生産性格差、所得格差、資産構成の差といった側面が影響する。(2)貿易相手国と自国との相対物価の変化が上昇しているということは、我が国の物価水準の伸びが貿易相手国の物価水準の伸びを下回っていることを意味する。データから判断する限り、我が国の円高の進展には物価水準が貿易相手国と比較して上昇していないこと、つまり欧米諸国をはじめとする各国と比較して緩和的な金融政策がとられていないことが大きく影響しているのである。

