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サーチ・ナウ
2009.11.30 サーチ・ナウ:電子マネーという決済ビジネスの行方
(電子マネーの収益性の視点より)
折りしも先日、Edyを展開している電子マネー専業者のビットワレット社を楽天が子会社化するという報道があった。日本の電子マネー専業者のビジネスモデルについては、海外の同業者や監督庁等からも関心を得ていたところであったため、業界にとってある意味タニングポイント的示唆を含んだニュースであった。
この電子マネー、今でこそ乗車券等の交通系電子マネー、コンビニやスーパーでの流通系電子マネー、あるいは携帯電話に搭載されている電子マネーなど、1人で何種類もの電子マネーを所有する人が、都市圏を中心に増えてきているが、もともと1990年代半ばから決済の場に活用しようとしてなかなか事業化できなかったものであり、これは世界共通の悩みでもあった。日本においては、かつて公衆電話用のプリペイドカードやバスカード等が広く普及していたが、これがICカードや携帯電話に搭載されたものが電子マネーである(注1)。ここにきて日本やアジア諸国で普及が加速したのは、接触型よりも非接触型の電子マネーによりスピード決済が実現化され、交通機関等を中心に実用化が始まり、またその快適さや利便性が利用者に広く認識され始めたということであろう。
ただ、今も昔も問題となるのは、電子マネーという決済ビジネスとしての収益性である。電子マネー事業の収益性を考える際、基本的視点となるのは、利用が限定エリアのみであるか、広範囲で使うことができるか(汎用)ということであろう。限定利用(チェーン店のみ、地域限定など)の場合は、発行企業の本来業務のほうで既に何らかの顧客ベースや端末・店舗の拠点を有している場合であり、これは公衆電話プリペイドカードに始まり、交通機関の乗車券やその提携店での利用、特定のコンビニや流通チェーン内での電子マネー利用等のことである。これらの電子マネーは、その利用限定エリアにおける販売促進ツールとしての位置づけが第一義であるため、電子マネー事業単独で収益をあげることは副次的になる。この利用限定型電子マネーに対し、広域で使われる汎用的な電子マネーとなると、電子マネーを広く使ってもらうために、発行機関はまず自らの手でその電子マネーが使われる端末や加盟店を増やし、加えて非常に多くの電子マネーを発行していくかなければならない。そのため多くのパートナーと提携していく必要があるが、パートナー各社にとって直接的な販売促進ツールと比較すると販促効果が見えにくくなる等の問題もあり、電子マネーの魅力度を増すために発行側は相当のコストを負担しなければならないのである。
なおここで、電子マネーをひとつの決済手段として、クレジットカードやデビットカード、現金といった他の決済手段と比べてみると、その本来的な収益構造から非常に厳しい現実がわかる。まず、クレジットカードは、(現金の持ち合わせの無い)利用者が加盟店でクレジットカードを使うことで売上増に貢献することから加盟店手数料を徴収し、加えて利用者には支払猶予期間があるということで年会費を徴収し、またキャッシングローン利用があると金利収入も期待でき、ある程度の収益が期待できる。これがクレジットカードほど大口決済ではないデビットカードの場合は、加盟店手数料レベルが下がり、一方で支払猶予期間がほとんどないため利用者からは年会費がとれず、金利収入の機会もない。これが小口決済の電子マネーに至っては加盟店手数料は益々低くなり、利用者からは逆に前払いとしてプレミアを要求されるため、決済手段の中で最も厳しい収益構造になっているのである(注2)。つまり、電子マネーは決済ビジネスとしての利ざやが極めて低いにも関わらず、クレジットカードなどと同様に、インフラに膨大な資金と手間がかかるインフラ産業(読み取り端末やリチャージ機の設置など)なのである。
加えて、電子マネーの健全な成長を考える上で心配されるのが、収益性が非常に低いが故に決済事業としての成立を諦め、ポイントや特典に頼らざるを得なくなった結果、電子マネーとポイントが不可分のようになってしまうことである。それどころか、加盟店手数料を上げてまでポイントや特典の原資を確保しようとする構図である。現在、電子マネーの発行者は、電子マネーと結びついたポイントや特典を販売促進の手段として多用しつつあるが、利用者が電子マネー利用においてポイントを当たり前のように受け取り、電子マネーとポイントサービスが一体化したもののように認識を始めると(たとえスキーム上は別のものであったとしても)、ポイントに金銭的価値を持つという期待を利用者に持たせることになり、実態としてポイントが"おまけ"ではなくなってくることである。
専業ではない電子マネー発行者にとって、電子マネーという決済ビジネス単独で成立させる必要が無ければ、その負担は発行者の本来業務(交通や流通等)の促進費やコスト削減効果で吸収させれば表面上問題はないのかもしれない。また、たしかに利用者から見ても、もともとバスカード等のプリペイドカードの時代には、前払いが故にプレミアがついていることが当たり前だったため、ICカードになっても前払いの場合はプレミアが欲しいという声は強いのかもしれない。しかし、この電子マネーとポイントの不可分性は、利用者にとって過度の期待による混乱の原因となるだけでなく、電子マネー提供者にとっても、ポイントが電子マネーの一部とみなされると、規制の対象となりかねず、これまで日本で花開いてきた"おまけ"文化も手足を縛られることになりかねない。
本来、決済手段としての電子マネーの基本に立ち返れば、大口ではなく小口の現金決済の代替手段としての位置づけである電子マネーのすばらしさは、利用者にとっても店舗(発行者)にとっても、まずは、改札や小売店における決済時間の早さ、加えて煩雑な現金を扱わずに済むことにあったはずである。今年6月に資金決済法が成立し、金融機関以外にも電子マネーや送金事業が解禁されたが、今後電子マネーや送金事業を営む事業者に忘れていただきたくないのは、電子マネーはあくまでも決済事業であるという認識と責任である。長い熟成期を経てやっと根付き始めた電子マネーには、今後日本においても、また海外においても益々便利に健全に伸びていって欲しいと思う。
(注2)ここでご紹介しているのは本来のカードビジネスにおける収益性の考え方の概要であるが、国により、また発行事業者等の事情により、その収益性の考え方に拠っていない(マーケットに矛盾や混乱が生じている)ことが散見されるのも事実である。(例:デビットカード利用額がクレジットカード利用額より大きくなるような手数料体系になっている、電子マネーの手数料がクレジットカードの手数料と同水準など。)