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サーチ・ナウ

2009.12.02 サーチ・ナウ:新政権での政策評価の行方〜形成的・総括的機能

公共経営・地域政策部 主任研究員 高崎 正有

1.はじめに
 2009年11月13日、独立行政法人国立印刷局市ヶ谷センター体育館で開催された行政刷新会議ワーキンググループの「政策評価、行政評価・監視」に関する事業仕分けは、大方の予想に反して極めて意外な結論を出した。開催時期・場所と会の運営の在り方の類似性から"平成版東京裁判"とも呼ばれる同WGは、ほとんどの事業に廃止・予算縮減等の厳しい結論を下している。このような中、当日下された結論は"抜本的な機能強化"というものであった(注1)。5日間にわたって繰り広げられた前半戦の議論の対象となった243事業で、ポジティブな判断がなされたのは実にこの事業だけであると言ってもいい。
 またこれに先立つ10月19日には、国家戦略室が、マニフェストの工程表に掲げられた主要な事項を中心に、政府として最優先の目標を厳選した「政策達成目標」を定め、その達成状況を事後評価し、予算が効果的・効率的に使われたかどうかを検証する『政策達成目標明示制度』を平成22年度予算から試行、23年度予算編成から本格的に導入する方針を示した。この方針を示した予算編成のあり方に関する検討会の論点整理では、"政策評価のあり方や体制についてさらに抜本的な検討を行う"としており、この方向性について、政府は2009年10月23日に閣議決定した「予算編成等の在り方の改革について」の中で、再度確認・明示している(注2)。


2.新政権の政策評価に対する期待
 新政権での政策運営の車の両輪として位置付けられる国家戦略室、行政刷新会議の双方が、いずれも「政策評価」に対して期待を寄せている点は注目に値する。我が国の政策評価制度(注3)は、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」に基づき、総務省行政評価局が制度を所管しつつ、2001年1月から政府全体に導入されている。すでに導入から9年を経過しようとしている制度ではあるが、一般的に見て、広く国民に認知され、かつ評価されている制度とは言い難い。例えば、総務省行政評価局が開催した政策評価フォーラムに参加した者を対象にして実施したアンケート(平成18年度)では、政策評価制度の認知度は6割に留まっている状況にある(注4)。その意味でも、新政権が政策評価制度に着目し、抜本的な見直しを行うことには大いに賛同するし、制度を所管する総務省行政評価局に課せされている宿題は極めて大きいものと考える。
 しかし、新政権の政策評価に対する期待は、ある意味、政策評価が本来持つべき機能のうち、ある限定的な側面にのみ、焦点を当てすぎているのではないかと危惧する。例えば、行政刷新会議WGにおける当日の議論は、政策評価結果を予算や人事の査定に活かしていくべきだ、(政策評価制度を所管し、かつ、政府部内において第三者評価を行う総務省行政評価局は)各府省にとってもっと恐れられるべき組織になるべきだ、との点(注5)に集中した。また、国家戦略室での検討も、今後の予算編成のあり方を検討する文脈で、予算の効率性を高めていくための術、予算統制の術として、新たに政策達成目標明示制度を導入しようとしている。いずれの主張も「政権・査定当局」が、事業の要・不要を判断し、不要な事業を「斬る」ためのツールとして、政策評価を用いていこうとしているようにも見える。例えば、原口一博総務大臣は、まさに政策評価等の事業仕分けが行われる当日の朝に、政策評価をして「私たちにとってのツール、戦うのに刀を自分で捨てる愚かな人間はいない」と話している(注6)。


3.政策評価機能に関する講学上の整理−形成的評価と総括的評価
 今から遡ること40年前、Scriven(1967)(注7)は、政策評価の主たる機能として、「形成的(formative)」機能と「総括的(summative)」機能の2つの側面があると指摘した。形成的な評価とは、多くの場合、施策の設計段階・導入段階に行われるもので、施策を担当する者が自ら施策等の「改善を意図(intent to improve)」して行われる。他方、総括的な評価とは、多くの場合、施策が導入された後に行われるもので、外部者もしくは意思決定者によって、今後当該施策を拡大・全面展開すべきか、継続すべきか、それとも辞めるべき(discontinue)かを意思決定するために行われる。この両者――形成的評価と総括的評価――の違いについてScriven(1991)(注8)は、Robert Stakeイリノイ大学教授(教育学)の言を引用し「コックがスープの味を確かめる行為が『形成的評価』で、客がスープの味を確かめる行為が『総括的評価』である」と実にうまくまとめている。

図表 形成的評価と総括的評価の違い(注9)
 形成的評価
Formative Evaluation
総括的評価
Summative Evaluation
誰が?
どこで?
主として施策担当者主として意思決定
組織内組織外
いつ?施策の設計・導入段階
日常的に実施
施策の導入後
中間・事後的に実施
何を?将来に焦点過去に焦点
日常的な出来事一般的な傾向
どのように?改善に向けた強み・弱みの分析達成状況の報告
ニーズ評価評価手法を用いた分析
なぜ?フィードバックエビデンス
組織としてのスキル全体的態度の表明

 諸外国の政策評価制度(注10)を見てみると、確かに、予算編成・予算査定権を有する財務省、もしくはそれに類する政府機関が制度を所管し、評価結果を(直接的にではないものの)予算編成・予算査定に反映させ、あれかこれかの判断に活用している事例は少なくない。例えば、米国ブッシュ前政権が大統領予算編成に活用するべく、2004年度予算編成時から導入した連邦政府共通の評価制度「施策評価格付けツール(Program Assessment Rating Tool:PART)」では、連邦政府全体で1,000に及ぶ施策について、施策を担当する各府省と、その予算査定を行う立場にある行政管理予算庁とがそれぞれ、共通する設問に基づき自己評価・第三者評価を行い、その結果に応じてスコア化、最終的に100点満点で採点・公表することで、評価結果を予算査定に活用してきている。
 他方で、諸外国の政策評価制度には、施策を担当する各府省が自ら政策評価を行い、各々の組織運営や施策そのものの改善に活かすことを意図した事例もある。同じく米国クリントン政権下で1993年に法制化され、我が国の政策評価制度の設計でも参考にされた政府業績成果法(Government Performance Results Act:GPRA)では、各府省は省レベルの中長期戦略目標である"戦略計画"と、年次単位での計画・評価である"年次業績計画""年次業績報告"を作成し、自ら、組織の使命、目的、目標を体系的に提示すること、そして、目標の達成度合いを毎年継続的に測定・評価することを義務付けた。
 このように米国では、それぞれ、形成的評価、総括的評価の機能を兼ね備えたGPRA、PARTの制度運用を通じて、時の政権・査定当局・省幹部・原課のそれぞれが、政策評価を行うことでその結果を様々な階層でのマネジメントに活用していこうとするインセンティブが醸成されてきた。そして現在オバマ政権では、既存の政策評価制度を改善・高度化すべく、制度見直しのアクションが行われているところであるが、この背景には、評価結果をさらに広範囲に、かつ有効な形で活用していこうとする狙いがある(この動向については、後日、稿を改めて紹介することとしたい)。


4.新政権での政策評価の行方
 ここで再び我が国の話に立ち返る。我が国の政策評価が「形成的」と「総括的」のどちらなのか、どちらの機能を実現・実装できているのか、また、今後どちらを目指すべきなのかの議論は様々あろう。ただ、新政権の政策評価に対する期待が総括的評価、あれかこれかを判断し、不要な事業を斬るためのツールの方に大きく偏っているのではないかと危惧するのである。以下、この点についてもう少し詳しく論じてみたい。

■「評価」と「意思決定」の違い
 一口で"評価"という際、その言葉を使う人によって様々なとらえ方がなされている。一連の評価プロセス(ここでは"評価"という言葉を広義に捉えている)を概念整理すると、おおよそ以下の3段階に分けることができる。
(1)評価対象(施策・事業・組織等)の目標や業績に関する情報を収集する「モニタリング」段階
(2)収集した情報を基に、評価対象の目標や業績の達成状況について客観的に整理・分析する「(狭義の)評価」段階
(3)(狭義の)評価結果を受けて、今後評価対象をどうするかを判断する「意思決定」段階

 ここで、(2)イコール(3)ではないということに留意すべきである。例えば、各国の予算査定当局は、評価結果の良し悪しのみで、評価対象の生殺与奪や資源配分をリニアに判断することはできないという意見で一致しており(注11)、(2)と(3)の間には大きな違いがある。その違いとは何か。(3)には必然的に意思決定者の主観、すなわち「意図」が介在するのである。そのため、実際に意思決定を行う者が誰で、その者が評価結果を何に・どのように活用するのか(したいのか)という点で、(2)の評価に求める機能は大きく変わりうるのである。

■「評価」と「意思決定」を担う主体
 そうなると、次に留意すべきなのは、(1)〜(3)の各段階をそれぞれ誰が担うのかという点である。まず、(1)については実際の現場にいる施策担当者が担うのが一般的であろう。他方、新政権のスタンスでは、(3)については政権が担うという考え方である。ならば、残る(2)について誰が担うのか。ここで先ほどの形成的評価と総括的評価の議論に行き着く。
 仮に、(3)の意思決定が「政権・査定当局」によって不要な事業を「斬る」ことに意図があるのだとすると、必然的に(2)は総括的評価が志向される。もしそうなのであれば、この場合の評価は、施策担当者ではない外部の第三者が行うべきであろう。
 逆に、(3)の意思決定が「組織の経営者」によって当該組織の「改善」を行うことに意図があるのだとすると、必然的に(2)は形成的評価が志向される。もしそうなのであれば、この場合の評価は組織を構成する施策担当者が行うべきであろう。
 前述の通り、新政権の政策評価に対する意図が前者、すなわち総括的評価にあるのだとすると、(1)のモニタリングを施策担当者に行わせ、(2)の評価を施策担当者ではない第三者が行い、(3)の意思決定を政権が行うという形で、今の政策評価のあり方を抜本的に見直すことになるだろう。では今後、政策評価の機能として後者、すなわち形成的評価は必要ないのだろうか。

■形成的評価と総括的評価−戦うための刀として
 新政権の旗印である政治主導の名の下で、マニフェストに書かれた内容を、その書かれた通りにこなすだけの執行部隊、もしくは自らの実績について淡々とモニタリング・報告するだけの伝達部隊を求めているのならいざ知らず、各省庁、各局、各課室が、それぞれ1つの組織体として存在・機能する以上、そこでの自律的なマネジメントの仕組みは必要不可欠である。その意味で、政策評価における形成的評価の側面、すなわち、自らを改善していくことを意図した、行政組織の自浄的活動・機能は、決して軽視・放棄してはならないと考える。そしてそこでは組織の経営者(注12)の意図、すなわち自らが統べる組織の継続的改善を図ろうとする意思と行動とが重要な意味を持つ。
 政策評価制度を所管する先述の原口総務大臣の発言――私たちにとってのツール、戦うための刀――は、新政権が、行政の無駄使いをなくしていく(行政のハットカズシステムそのものをぶっ壊していく)上でのツールとして、政策評価は重要であるとの主張であった。確かにその通りである。ただし、戦う相手は「行政の無駄」なのであって、"政権・査定当局・行政評価局"対"各府省"という対立軸ではない。戦線は政府・府省・局・課室のそれぞれのレベルに存在するのであって、それぞれのレベルで無駄を排し、効率的・効果的な行政を実現していくためには、政策評価の形成的機能と総括的機能の双方が、同時に同程度必要なのである。


(注1)http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov13kekka/1-23.pdf
(注2)http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2009/1023yosanhensei.pdf
(注3)詳しくは、総務省行政評価局ホームページ。http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/seisaku_n/index.html
(注4)http://www.soumu.go.jp/menu_seisakuhyouka/pdf/070710_3_se3.pdf
(注5)この他、事前評価に力点を置くべきとの議論もあったが、この点については荒川潤(2008)『行政機関の評価は、「事前評価」が重要です』を参照のこと。http://www.murc.jp/politics_c1/search_now/2008/06/sn_080630.html
(注6)http://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/02koho01_000067.html
(注7)Scriven, M.(1967),"The methodology of evaluation" R. W. Tyler, R. M. Gagne, & M. Scriven, Perspectives of curriculum evaluation.
(注8)Scriven,M.(1991), Evaluation Thesaurus 4th edition.
(注9)Scriven,M.(1991)、テキサス大学効果的教育・学習センターウェブページ(http://sunconference.utep.edu/CETaL/resources/portfolios/form-sum.htm)、クラリオン大学・エディンボロ大学・スリッピーロック大学看護学研究科ウェブページ(http://www.sru.edu/Pages/6423.asp)を参考に作成。
(注10)GPRA、PARTについては、総務省行政評価局(2006)「諸外国における業績目標の達成度の把握に関する調査研究」(弊社受託)を参照のこと。http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/seisaku_n/chousakenkyu/houkoku_1807.pdf
(注11)OECD各国の予算担当官の研究ネットワークである"senior budget officials network on performance and results"では、過去5回の年次総会においてこのテーマ――業績予算――を議論しており、その中で「業績予算は、業績に応じて予算をダイレクトに調整する仕組みではない。業績と予算のダイレクトなリンケージが実用的に機能する分野は限定的である」との共通認識を持つに至っている。詳しくは、左近靖博(2009)『OECD諸国における"Performance Budgeting"に関する実務・研究の諸動向に関する考察』日本評価学会春期第6回全国大会を参照のこと。
(注12)拙稿にて、それぞれの省庁の担当大臣には、政権を構成する一員としての役割と、担当省庁の経営者としての役割の双方を担うことが求められると指摘している。高崎正有(2009)『行政刷新会議の政策見直しの可能性〜カナダの教訓』http://www.murc.jp/politics_c1/search_now/2009/08/sn_090810_2.html

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