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サーチ・ナウ
2010.06.16 サーチ・ナウ:行政経営への民間のマネジメント手法の導入再考
公共経営・地域政策部(東京) 主任研究員 福井 健太郎
○民間企業のマネジメント手法の導入が行政改革の成果につながっていない
- ニュー・パブリック・マネジメント(注1)(New Public Management:NPM)の理論が紹介されて久しい。我が国においても、民間企業における経営理念、マネジメント手法等を公共部門に適用することにより、マネジメント能力を高めて、効率的で質の高い行政サービスの提供を目指すというNPMの考え方が広まり、多くの行政機関において民間企業の経営手法や業務改革手法の導入が試行錯誤的に進められてきた。
- しかし、実際に、これら民間企業の手法が、組織のマネジメントに必須かつ効果的なツールとして定着しているか、また、成果の導出につながっているかというと、当初期待されたほどの効果は得られていないのではないかと考えられる。もちろん静岡県や滝沢村などのように、これらのツールを自らの組織の目的や状況に合わせて使いこなすことにより成果を挙げることに成功している機関もあるが、期待していた効果やメリットが実感できず、取り組みを止めてしまっている行政機関も少なくないと考えられる。
- それら失敗の原因については様々な要因が想定されるが、総じて行政機関においては、民間企業のマネジメントや業務改革手法(以下、「マネジメント手法(注2)」と言う。)を導入すれば、それだけで諸々の課題が解決できるという誤解があることが大きな要因と考えられる。そもそもマネジメント手法は一つの手段(方法論)に過ぎず、具体的な目的・目標の設定と合わせて、その実現に向けて「目的−手段」の関係で考えていくことが重要である。そのことを前提として、マネジメント手法を導入して成果をあげるためには、必要とされる要件が複数あると考えられる。本稿では、民間企業のマネジメント手法を行政機関に導入して目的を達成するために、どのような工夫や取り組みが必要かについて考える。
(1)トップによる改革のビジョン・方針の提示とその共有化が大前提!
- 改革のためのマネジメント手法の導入段階では、トップ自らが組織として、なぜ、何を目的に改革を行うのか、そのための手段としてのマネジメント手法が、なぜ、どのような観点から必要なのかといった改革のビジョン・方針を明確にし、それらをトップが自分の言葉で具体的なメッセージとして組織全体に伝えることが、最も重要なポイントである。
- トップのメッセージを通して、改革のビジョン・方針が組織全体に理解、共有されていれば、マネジメント手法の導入段階において試行錯誤があったとしても、現場の職員が改革の目的に従って動くことを促しやすい。また、目的が明確であるため、改革の手段やアプローチとしてのマネジメント手法の導入が、自己目的化することも防止することができる。
(2)トップダウンとボトムアップを組み合わせたアプローチが重要!
- マネジメント手法を活用した改革の実施段階では、トップダウンだけではなく、ボトムアップを組み合わせた上からと下からの双方のアプローチが必要である。
- その理由は、トップが明確な改革ビジョン・方針を提示して、改革の実現に向けた経営資源の投入や環境整備のための意思決定を行うことは改革の前提ではあるが、実際の改革を主導するのは現場の職員であり、現場の職員の目標達成に向けた責任感に基づく積極的なチャレンジ、提案や創意工夫に基づく取り組みなどが、改革を推進する上で必須の要件になるためである。そのためにも、職員の自発的な取り組みを促す仕組みやインセンティブを整備したり、改革の計画作りに現場の職員を参加させたりするなどの仕掛け作りを行っていくことが重要である。
(3)改革を牽引する人材の育成が最大の鍵!
- マネジメント手法を活用した改革を円滑かつ機動的に推進していくためには、職員の意識改革や改革の手法・ツールの理解促進を図ることが不可欠であるとともに、改革を担い、強力に推進していくための牽引役となるような人材を育成できるかどうかが、改革の正否を握る鍵である。改革を担う人材とは、改革のビジョン・目的をきちんと理解した上で、改革全体の方向性を見通し、常に組織の先頭に立って自律的・能動的に改革を主導する人材であり、その中でも組織のメンバーに改革のビジョン・目的を伝える役割を担い、高いコミュニケーション能力を有する人材をリーダーとすべきである。
- 改革人材を育成するためには、改革の計画や進捗に合わせた人材育成計画を策定し、その中で必要な能力・スキルを体系化し、キャリアパスを明確化にした上で、OJTやOff-JTによる研修プログラムなどの人材育成ツールを整備してタイムリーに実施していくことにより、計画的に改革人材の育成を図っていくことが必要である。
- 特に、職員の組織内での役職・位置付けによって改革への関与の仕方も異なってくるため、幹部、中堅、若手ごとに、それぞれの層を対象に開発された人材育成のプログラムや研修を実施するなど、きめ細かい人材育成の取り組みが有効であると考える。
(4)職員の意識改革やモチベーション向上のための取り組みが必要!
- マネジメント手法を活用した改革の実施には、多かれ少なかれ抵抗が避けられないものである。それは、改革を実施することにより、これまでの仕事のやり方を変えることを求められたり、業務そのものを見直すことにより仕事がなくなったり、人員削減が図られたりするなど、時に痛みを伴うものであるためである。
- そのような抵抗を排し、職員がより積極的に改革に取り組むように仕向けるためには、職員の意識を改革したり、モチベーションを向上させたりするための方策を講じることによって職員全員を改革に巻き込み、改革の当事者として自律的・能動的に行動させることが重要である。
- 具体的な方策としては、改革の成果を業績評価や人事評価の対象にしたり、トップが際だった改革の取り組みについて表彰する制度を整備したり、研修プログラムとして職員が自分の組織の課題を設定してリーダーとして解決を図るための手段を考えさせるようなプログラムを整備して当事者意識を高めたりするなど、制度面の整備をすることが重要である。また、公開の場で意思決定を行うための「政策会議」を開催して経営トップが徹底的に改革の議論を行ったり、上司と部下の間で継続的かつきめ細かなコミュニケーションを行うことにより職員の改革の目標や成果について確認したりするなど、運用面で工夫することも必要である。
(5)継続的な取り組みによる組織への改革の浸透・定着化を!
- 最後に、改革を一過性のものとして終わらせずに、マネジメント手法を活用した改革を継続的かつ組織的な取り組みとして実施していくことが極めて重要である。なぜなら、中長期的な観点から、改革の取り組みを組織に浸透・定着させ、継続的に成果をあげられる組織体に変えていくことが必要であるためである。
- 組織に改革を定着させるためにも、改革に必要な相互に関連する様々な制度や運用上の工夫(改革のビジョン・方針、トップダウンとボトムアップのアプローチ、改革人材の育成、意識改革とモチベーションの向上)を組み合わせて、マネジメント手法を活用した改革の取り組みを展開していくことが重要である。
- どのような改革でも、行政機関を取り巻く外部環境や経営状況の変化により、取り組みから数年経つと改革の効果が減少し、課題解決の手段として陳腐化することが避けられず、また、職員の間に改革運動疲れが生じうると考えられる。従って、定期的に改革の成果をきちんと評価した上で、改革の取り組みを見直したり、他のマネジメント手法を組み合わせて進化させたりするなど、改革の見直しを不断に行っていく組織文化を作っていくことが重要である。
(注1)1980年代の財政赤字の拡大等を背景にイギリス・ニュージーランドなどを中心に行政実務の現場を通じて形成された行政運営理論で、民間企業における経営理論・手法、成功事例などを可能な限り行政現場に導入することを通じて、行政の3E(経済性::Economy、効率性::Efficiency、有効性::Effectiveness)の達成を図り、市民に対して最大の満足(Value for Money: VFM)を提供すること。NPMの基本原則として、(1)業績/成果による成果主義、(2)競争原理の導入、(3)顧客志向への転換、(4)簡素な組織編制、があげられる。
(注2)ここでは、ABC・ABM、BSC、BPR、シックスシグマなど、経営分析やマネジメント改革を実現するためのフレークワークのことを「マネジメント手法」と言う。
(注2)ここでは、ABC・ABM、BSC、BPR、シックスシグマなど、経営分析やマネジメント改革を実現するためのフレークワークのことを「マネジメント手法」と言う。