高等教育の経済効果~限界を迎える大学教育と専門教育への特化~
全文紹介

2015/09/01
調査部 尾畠 未輝


○教育を積むほど非正規雇用比率が下がる。この10年間で非正規雇用は急速に拡大したが、とくに20歳代や30歳代の高卒が大きく増えた。また、教育を積むほど大企業で働く人の割合が高まる。大企業の雇用者のうち最も多いのは高卒だが、その多くは非正規雇用者であり、正規雇用者に限ってみると大卒が最も多い。さらに大企業では大卒や院卒の方が昇進や昇格に繋がりやすい。もっとも、高等教育の普及を受けて、以前と比べると大卒や院卒であっても役職に就くことが難しくなっている。


○雇用の違いが、結果的に賃金にも格差を生み出している。賃金水準の高い正規雇用者、大企業雇用者、役職者が多いことから、大卒・院卒の賃金カーブは高位にある。高卒と大卒の年収の差は、年齢が上がるにつれて拡大し、その格差は女性で大きい。所得の分布状況でみても、高卒では年収300万円未満が6割を超えるが、大卒では3割と低い。一方、大卒や院卒では年収1000万円以上という高所得者がそれぞれ全体の7.2%、15.2%を占める。


○教育に関する経済理論として代表的なものに「人的資本理論」と「シグナリング理論」がある。前者は、教育を積むことで労働者の知識や技術の水準が上がり生産性が高まるという考え方である一方、後者は教育が労働生産性を上げるのではなく、労働者がもともと持っている生産性の高さを雇用者に伝えるシグナルとしての役割を担っており、生産性の高さは生まれ持った能力の高さによるという考え方である。


○教育には多大なコストが掛かるが、大学に進学することで追加的に掛かる金銭的費用と比べ、追加的に得られる金銭的効果の方が大きいため、能力があれば進学しようとするインセンティブが働く。ただし、少子化が進む中でも大卒の人数は横ばいであり、大学教育が持つシグナルの効果は低下している。足元では進学率が頭打ちとなるなど、現状の大学教育には限界がみえてきた。


○少子化と高学歴化が定着する中、改めて高等教育の人的資本の蓄積という役割が重視される。近年は教育における専門性の強化が進んでいるが、その方法としては、大学院などでさらに教育を深める方法と専門学校などで早い段階から専門教育に特化する方法がある。前者は知識型の職業が多く高い生産性に結び付いているが、後者は技能型の職業が多く必ずしも高い生産性を生み出せていない。成長産業である医療・福祉の分野は後者の教育によって支えられている。専門性を持った雇用者を確保するための教育はまず必要だが、それだけではなく人的資本の強化という高等教育が持つ本来の役割が改めて求められている。


全文紹介 前のページへもどる

ページの先頭へ

1234567890