経常収支の長期展望
全文紹介

2012/03/22


○日本の経常収支の長期的な動向をみると、1960年代半ばに貿易収支が黒字に転じ、それとともに経常収支も黒字基調が定着することとなった。その後、1980年代に入ると所得収支の中心である投資収益が黒字に転じ、1980年代半ばまでは貿易黒字の拡大が続いたことから経常黒字はさらに拡大した。その後も経常黒字が続く中、2000年代半ば以降は所得収支の黒字が貿易黒字を上回るようになるなど、黒字構造に変化がみられる。こうした日本の経常収支の動向は、国際収支の発展段階説によって説明できる。


○日本の貿易収支は、輸出を増やすことで黒字を拡大してきた。輸出の増加は主に数量の増加によるものであるが、かつてと比べれば輸出数量の伸びは鈍化傾向にある。原油をはじめ資源の輸入額が輸入総額に占める割合が高い日本では、原油価格の上昇によって交易条件が悪化した場合に貿易黒字が縮小する傾向がある。リーマン・ショックを契機に落ち込んだ輸出はショック前の水準と比べれば回復していないことから、原油価格上昇によって貿易収支が赤字になる可能性が以前に比べると高まっている。


○日本の所得収支の黒字を生み出す背景にある対外資産と対外負債の規模を、日本と同様に所得収支が黒字である先進国(米、英、独、仏)と比較すると、日本の対外負債は非常に小さいという特徴がある。また、所得収支の黒字に影響を及ぼす対外資産からの受取収益率と対外負債に対する支払収益率の水準を比較すると、日本は対外負債に対する支払収益率が低いことから、対外資産からの受取収益率と対外負債に対する支払収益率の差は米国と並んで最も大きい。日本の所得収支の黒字の背景には、対外負債が小さいことと対外負債に対する支払収益率の低さがあると言える。


○日本の経常収支の試算を行うと、原油価格の上昇と円高が長期にわたって続くという前提の下、貿易収支は赤字となっても、当面は所得収支の黒字額が大きいことから直ちに経常収支が赤字になる可能性は小さい。ただし、長期的には交易条件の悪化により貿易赤字が拡大し、経常収支は2026年には赤字に転じる結果が得られた。原油価格の上昇ペースが高まる場合には、赤字に転じるタイミングが早まると考えられる。一方、為替レートが円安に推移した場合には輸出の増加が見込まれるものの、輸入価格の上昇などを通じて輸入も増加することから貿易収支はそれほど改善しない可能性がある。他方で、円安は対外純資産の円ベースでの増加を通じて所得収支の黒字幅を拡大させ、経常黒字を拡大させる効果をもたらす。経常収支が赤字に転じるタイミングは遅くなるという試算結果が得られた。


全文紹介 前のページへもどる

ページの先頭へ

1234567890