円安の功罪

2014/01/10

◆アベノミクスの1年

2013年はアベノミクスで経済が一変した年だった。とくに大幅な円安で企業収益が改善したことが目立つ。安倍首相は、就任前には「デフレの克服といき過ぎた円高の是正が日本経済再生の鍵だ」といった趣旨の発言を繰り返していたから、まさに思い通りの結果を実現させたことになる。もちろん、株価の上昇が資産効果を通じて消費を押し上げた(例えばデパートの絵画、宝飾・貴金属、高級時計などの売上げは絶好調)ことや、大型補正予算が組まれて公共投資が成長率を押し上げたことも実体経済に貢献した。ただ、その効果は一時的だと思われる。

◆円安で流出する日本の所得

しかし考えてみると、今や日本は貿易赤字の国だ。つまり、輸出金額より輸入金額のほうが大きい。円安で輸出金額の円換算額が膨らむことは輸出企業にメリットをもたらすが、他方で、輸入金額の円換算額の膨張は輸入企業にとってはデメリットだ。しかも、こうした効果が生じるのは原則として外貨建ての輸出入に限られる。輸出と輸入では外貨建て(円建て)取引の比率が異なるため、足元では貿易収支の総額は年間10兆円程度の赤字だが、外貨建ての輸出入尻に限れば約18兆円の赤字だ。円安の赤字拡大効果は見かけ以上に大きいのである(円安の効果は輸出入額に同様に効くから、10%の円安は赤字額も10%増加させる。ただし、それは10兆円の10%ではなく、18兆円の10%である)。

貿易収支が赤字であれば、貿易によって国内からそれだけ所得が流出することを意味するし、赤字の拡大は流出額の拡大を意味する。つまり円安の進行は、経済成長の観点からは成長率を押し下げる方向に働くのだ。また企業収益についても、輸出企業が得るメリットよりも輸入企業に生じるデメリットのほうが金額としては大きいことは言うまでもない。

それにもかかわらず、円安で企業収益全体が拡大しているのはなぜか。これは、輸入企業に生じるデメリットの一部が家計に転嫁される(例えばガソリン価格や電力料金の値上げ)のに対して、輸出企業は円安のメリットをフルに享受できるためだろう(もちろん、その一部は従業員へのボーナス等に充てられるが)。円安のデメリットの一部を家計が負担するお陰で、企業収益だけで考えればメリットがデメリットを上回っているのだと考えられる。

◆円安は問題の解決策ではない

とはいえ、日本全体で貿易面から経済にマイナスの影響が及ぶのは避けられない。具体的には、企業収益は増えるとしても、家計からみると物価の上昇率が所得の増加率を上回って実質所得が減少することになる。もちろん、円安のお陰で外貨建ての資産の円換算額が拡大するとともに、その利息や配当の円換算額も増加する。この資産効果や所得効果がある程度消費を押し上げるだろうから、このプラス効果が貿易面のマイナスをどの程度埋めるかがポイントではある。

円安は、海外からの安値品に市場を奪われていた国内の事業者が息を吹き返すという効果ももたらす。これは、消費者からそれらの事業者に所得が移転することを意味するわけで、困っている人を助けるという効果はあるが、経済成長率を高めるとか、日本経済を強くするといった効果はない。

輸出関連大企業の中には、空前の利益を計上するところもある。しかし、こうした企業はもはや日本企業と言うよりはグローバル企業だ。グローバル企業の業績は、円ではなくドルベースで測るべきだろう。その観点からは、円安が進むと国内の業績のドル換算額が減少する一方、ドルベースで見た海外の業績は不変だから、少なくとも円安で業績が良くなったとは言えないはずだ。

物事には表と裏がある。為替で一喜一憂しているだけでは、日本経済は強くなれない。

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「daily REPORT」2014年1月6日より転載)

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