財政インフレは起こらない

2017/03/09

日銀券は印刷されただけではただの上質な紙切れだ。これが通貨として価値を持つには、日銀のバランスシート上に負債として計上される必要がある。しかも、日銀がそうするのは市中にある日銀券に限られるが、それらはすべて銀行預金が現金で引き出されたものに他ならない。

日銀がひたすら輪転機を回せば、世の中にお金が溢れて物価が上昇すると思われがちだが、あり得ない話だ。日銀券は預金のごく一部である。インフレを引き起こす可能性があるお金は日銀券ではなく預金でなければならない。

預金は銀行の信用創造(貸出や債券の購入など)によってのみ増える。したがって、最近話題の財政インフレとは、政府が国債を大量に発行して銀行に購入させ、見合いで銀行が創造した預金がインフレを引き起こすのだ。おそらくその場合、銀行とは民間銀行ではなく日銀だ。しかしその類のインフレは、政府と日銀が結託して多額のバラマキ政策が行われる結果として生じるものであろう。まさか政府や日銀がそこまで愚かなことをやるとは考えにくい。

したがって、今後日本で起こりうるインフレは財政インフレではない。あるとすれば、日本の財政健全化の失敗を引き金にして円が暴落し、その結果起こるハイパー輸入インフレだ。このインフレは名目所得を増やすどころか逆に減らしてしまう可能性がある。そうなると実質所得が大幅に減少するうえ、借金の実質的な返済負担も重くなって事態はむしろ悪化する他ない。

政府の経済政策は金融政策の行き詰まりを受けて財政政策にシフトしつつあるように見える。しかし財政を使ってインフレを起こせばデフレ脱却できるという考えに与するのは誤りだ。実際には物価は上がらず、財政状況がいっそう悪化してしまうだけだ。

(2017年3月2日 日本経済新聞・夕刊 『十字路』」より転載)

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