統合政府という幻想

2017/07/03

◆統合政府で見ると借金が消える?

2013年4月に始まった「異次元」の金融緩和政策の主たる手段として、日銀は大量の国債を市場から買い続けてきた。今年5月末の時点で、日銀が保有する国債の残高は427兆円、うち長期国債だけでも390兆円にもなる。国債の発行残高総額は838兆円(今年3月末の見込み額)だから、今や発行済み国債のおよそ半分は日銀が持っていることになる。

そもそも日銀は公的な機関だから、そうであれば政府と日銀のバランスシートを合体させて統合政府として捉えればよいとする考え方がある。この見方に立つと、国債は政府の債務だが、日銀にとっては資産である。したがって統合政府で考えれば、この資産と負債は相殺できる。国債の利子についても、政府が支払う利子は日銀の所得になって、それは納付金として政府に還流する。結局、政府が発行した国債のうち日銀が保有している分は、実質的に償還も利払いも必要ないということになる。何と、借金であるはずの国債の残高が半減するような話なのだ。

◆バランスシートで見た国債発行

ずいぶんうまい話だが落とし穴はないのか。実はある。以下、順を追って説明しよう。

政府が国債を発行して資金調達をすると、そのお金は政府が日銀に保有する当座預金口座(以下、「政府当預」と呼ぶ)に振り込まれる。例えばこの国債を銀行が購入するのであれば、銀行が日銀に保有する当座預金口座(以下、「日銀当預」と呼ぶ)から政府当預に代金分の資金が移動するのだ。銀行以外の民間部門が国債を購入しても同じこと。日銀当預から政府当預に資金移動が起こる。

もっとも、政府は歳出として使うために資金調達するのだから、政府当預に一旦積み上がった資金はいずれなくなる。これを政府のバランスシートで考えると、当初は負債側に国債の発行額があり、資産側に同額の政府当預がある。しかし歳出が進むにつれて政府当預は減少していく。その場合でもバランスシートは均衡を維持するのだが、それは政府当預の減少額に見合った「債務超過額」が負債側のマイナス項目として計上されるからだ。結局、政府当預がすべて使われてしまうと、バランスシート上では負債側に国債の発行額、および同額の債務超過額(マイナス項目)が計上されることになる。

次に日銀が市場から国債を購入すると、日銀のバランスシートの資産側にその国債が計上され、負債側では日銀当預が同額増加する。実は増加するこの日銀当預は、政府が国債を発行して賄った歳出が、民間部門の預金を通じて日銀に還流したものにほかならない。つまり、政府の歳出を受け取って民間部門の預金が増加する際に、銀行のバランスシート上では、負債側で民間部門の預金が増加し、資産側では政府から受け取った日銀当預が同額だけ増加するということだ。

◆それでも残る統合政府の債務

さて、そこで統合政府のバランスシートを考えてみよう。国債は資産、負債の両側に計上されることになるから、実質的に相殺される。しかし負債側を見ると、日銀のバランスシートにあった日銀当預と、政府のバランスシートにあったマイナス項目としての債務超過が残っている。この日銀当預の額と債務超過額は当然一致しているので、統合政府のバランスシートも均衡が維持されているわけだ。

バランスシートはマクロで考えてももちろん均衡するから、統合政府のバランスシートに残っている2つの債務は、別の経済主体のバランスシートの資産として計上されていることになる。具体的には、日銀当預は民間銀行の資産であり、債務超過は民間部門の資産超過として計上されている。

民間部門の資産超過額は預金として計上され、その預金は民間銀行の負債だが、その負債を担保するものが民間銀行の資産である日銀当預だ。したがって、日銀が保有している国債の額だけまるで負債が消えてしまうかのような「統合政府」の議論は、統合政府のバランスシートに残っている日銀当預という負債を無視していることになる。それは回りまわって民間部門の預金という資産を否定することに等しい。

結局、政府が借金して歳出を行うと、その分は必ず債務超過(民間部門に対する負債)になるということだ。借金の証文である国債をいくら日銀に買ってもらったとしても、債務超過は1円たりとも減りはしないのだ。

◆国の債務超過こそが問題

しかし、一般の企業でもそうだが、債務超過に陥っても即破たんとはならない。資金繰りがつく限り企業は破綻しないし、それは国(政府)でも同様だろう。

現在の政府の債務超過額(資産負債差額)は、実物資産等を考慮しても500兆円を軽く超えている。それでも財政が破たんしないのは、資金繰りである国債の発行が支障なく行われているからだ。しかし日銀が10年債の利回りを0%程度にコントロールするという「低金利・高価格」が実現してしまった現在、市場参加者の国債購入意欲はかなり冷えていると考えられる。常識的に見て、今の国債価格では値上がり余地よりも値下がり余地の方がはるかに大きいからだ。今後も借換債を含めた国債の発行額が増え続けることは確実だが、その増加テンポに歯止めをかけないと、近い将来、買ってくれるのは日銀だけだといったことにもなりかねない。

日本の財政状況は言われているほど悪くない、経済成長さえ実現すれば、財政健全化は自ずから達成される、といった楽観論も聞こえてくるが、国が債務超過の増加を放置することは国民の財産(資産)がないがしろにされることを意味するのだ。真剣な取り組みが求められる。

(三菱UFJビジネススクエアSQUET 情報スクエア「五十嵐敬喜の『経済をみる眼』」2017年6月16日より転載)

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