物価上昇が目標でいいのか

2017/09/01

デフレは望ましくない事態だと言われるが、「所得が増えて物価は上がらない」のであれば結構なことだ。しかしデフレが所得を減少させるのなら問題だ。ではデフレは所得を押し下げる原因か。少なくとも今の日本経済においては、因果関係は逆だと思われる。

アベノミクスはデフレ原因説だ。金融の緩和不足がデフレを生み、デフレが原因となって経済を低迷させたという考え方だ。異次元の金融緩和でデフレを払拭すれば、後はうまく行くというわけだ。

しかし健全な常識に従えば、金融緩和を続けても物価は上がらない一方、物価が上がらなくても景気はよくなってきたことが、日本経済の現実であると理解できる。

7割以上の家計が「物価は上昇する」と考えているのに、家計にデフレマインドが染みついていると言えるのか。家計は、物価は上がるが給料はほとんど増えないと思っているのだ。だからこそ安いものを物色する。売り手はそれが分かっているから値上げできないという図式だ。

経済活動の結果、生み出される所得(パイ)は、政府と家計と企業で分け合う。日本経済の深刻な問題は、パイである名目国内総生産(GDP=国内総所得)が、過去20年程にわたりほとんど増えてこなかったことだ。しかもこのパイのすべては、基本的には広義の企業活動の成果だ。デフレは企業が自信を持って価格付けできず、パイを増やせないでいる状況を示している。

しかし金融政策でパイは増やせない。デフレを終息させるには、消費者が納得してより高い価格を払うようなモノやサービスを売り手が提供し続ける必要がある。継続的に付加価値を高めるということだ。それができればパイが増え、結果として物価も上がる。物価上昇が起点だと考えるからうまくいかないのだ。

(2017年8月25日 日本経済新聞・夕刊 『十字路』」より転載)

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